2014年3月14日(金)
主張
集団的自衛権問題
国民欺く虚構の議論をやめよ
安倍晋三首相は、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認のため、さまざまな口実を使って合理化を図ろうとしています。その一つが、具体的な事例を挙げ、「集団的自衛権が行使できなければ対応できない」といって、国民の不安をあおりたてる手法です。それらの事例はどれも、技術的に不可能だとか、現実にはあり得ない事態だと専門家からも批判が相次いでおり、通用するものではありません。意図的なつくり話で世論誘導することはやめるべきです。
技術的にあり得ない
集団的自衛権の行使を合理化するための事例の一つに、米領グアムや米本土に向かう弾道ミサイルを日本が撃ち落とさなくていいのかという議論があります。
首相は、「ミサイル防衛において、日本に飛んでくるものは(撃ち)落とすけれども、グアムに飛んでいくものは(撃ち)落とすことができてもパスをしてしまう。これでもう相当たくさんの死者が出る。日米同盟はその段階において大変な危機を、終わるかもしれないという危機を迎える」(2013年2月27日、参院予算委員会)と述べていました。
ところが、グアムに向かう弾道ミサイルは高高度を高速で飛ぶため、日本のミサイル防衛システムで撃ち落とすことが技術的に不可能なのは、政府自身も以前から認めていたことです。もともと無理なことを集団的自衛権行使容認の口実にするのはおかしいとの批判を受け、首相は、「もし将来、技術的にそれが可能となった場合、グアムあるいはハワイに向かっていくミサイルについて撃ち落とす能力があるのに撃ち落とすことはできないのか」(今年2月10日、衆院予算委)と答弁を修正し、日本に迎撃能力がないことを認めました。集団的自衛権の行使容認ありきで、都合のいい事例を考え出したものの、破たんしたのが実態です。
グアムに飛んでいく弾道ミサイルを撃ち落とす例を挙げられなくなったためか、最近、首相がよく持ち出すのは、“公海上で日本に対する弾道ミサイル攻撃の警戒に当たっている米国のイージス艦が攻撃を受けた際、近くにいる日本のイージス艦がこれを防がなくていいのか”という議論です。
これも、専門家は、日米のイージス艦が近くで一体的に活動していれば日本側への攻撃とみなして反撃できると指摘しています。首相は、両艦が水平線を越えてお互い見えないほど離れていることがあると反論していますが、それほど離れている場合には、逆に、米艦への攻撃を防ぐのは技術的に不可能だといわれています。
首相は、“朝鮮半島有事で米軍を攻撃している北朝鮮に武器弾薬を運んでいる船舶が日本の目の前を通過しているのにこれを阻止しなくていいのか”という例もしきりに挙げます。これも、朝鮮半島が戦闘状態になれば日本海は船舶が武器を運べるような状況ではないと、非現実性が指摘されています。
海外の武力行使狙い
安倍首相が解釈改憲によって可能にしようとしている集団的自衛権行使の本質は、日本を「海外で戦争できる国」に変えてしまうことです。首相などが持ち出す事例は、それをごまかすための口実にすぎません。国民を欺く虚構の議論はやめるべきです。