2014年2月21日(金)
企業にすり寄る仏政権
教育・医療の低下 労組警戒
フランスのオランド政権が経済活性化を理由にした企業優遇策に躍起になっています。雇用創出を狙ったものですが、目玉施策として打ち出された企業競争力強化のための労働コスト削減(社会保険企業負担分の軽減)に労組は警戒を強めています。(パリ=浅田信幸)
|
オランド政権は17日、ゼネラル・エレクトリック、シーメンス、インテル、サムスンなど多国籍企業34社の代表を集めて仏への投資増大を要請。この席でエロー首相は、労働コスト削減の努力を仏経済の競争力強化のためだと自賛しました。
大統領が企業寄りの姿勢を強める背景には、ようやく見え始めた景気回復の兆しも力強さに欠け、外資によるフランスへの投資が昨年、前年比で77%も急減(国連貿易開発会議〈UNCTAD〉の発表)している事実があります。
大統領にとってとりわけ深刻なのは、3月のいっせい地方選、5月の欧州議会選を控えて、戦後最悪の失業率(10・8%)が高止まりし、公約違反を問われて支持率も戦後最低レベルで低迷していることです。
局面打開を狙ってオランド氏は経営者団体に「もっと投資を」促す施策として、2017年までに300億ユーロ(約4兆2000億円)にのぼる企業負担分の軽減を公約。見返りに雇用増大を迫る内容を盛り込んだ政府・労組・経営者団体の3者による「責任協定」締結を提案しました。
その一方で、政府は欧州連合(EU)が基準とする財政赤字幅を国内総生産(GDP)比3%以内に収めるため、向こう3年間で政府支出を500億ユーロ抑制する必要があるとの試算を公表しています。
サービス低下
これに対し、労組や与党である社会党の左派も含めて共産党・左翼勢力は、企業負担軽減の穴を埋める財源問題や政府支出抑制が、教育や医療など社会サービス全般の低下につながりかねないと懸念を強めています。
こうした状況の中で、最大全国労組の労働総同盟(CGT)は「労働コスト」論に対抗する「資本コスト」論のキャンペーンを進めています。
労働コストは、労働者を雇う際に企業が支払う賃金と社会保険料負担分を足した額。これが高いために雇用も投資も抑制され、企業競争力低下の原因になっているとの議論がメディアを通じて大々的に流布されています。オランド大統領「責任協定」提案もこれに乗ったものです。
これに対し、CGTは株の配当金や金融機関への利払いを「資本コスト」と定義しています。たとえば「株主に支払われる配当金は、1981年には1労働者につき10労働日に相当したが、2012年には45労働日、すなわち4・5倍になっている」と指摘します。
富の再分配を
ルポンCGT書記長は「労働の価値を再評価し、労働によって生み出される富の再分配を変える」ことこそ必要だと主張します。
「責任協定」は現在、政労使間で協議が続けられている最中であり、すべてのカードが出そろったわけではなく、今月末には労資協議が予定されています。たたかいの山場は3月になるとして、労組はその準備に余念がありません。