2014年1月30日(木)
志位委員長の代表質問
衆院本会議
日本共産党の志位和夫委員長が29日、衆院本会議で行った代表質問は次の通りです。
秘密保護法――廃止法案の審議に「丁寧に時間をとって」応じる用意があるか
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私は、日本共産党を代表して、安倍総理に質問いたします。
昨年の臨時国会は、秘密保護法に反対する1万5千人の人々が国会を包囲するなか、安倍政権が、この希代の悪法を強行するという幕切れとなりました。
しかし、国民の目・耳・口をふさぎ、日本国憲法の基本原理をことごとく蹂躙(じゅうりん)する秘密保護法に反対する声は、法案が強行された後も、さらに広がっています。秘密保護法の廃止等を求める地方議会の決議や意見書は、この1カ月あまりで100自治体を超えています。この通常国会は、召集日に秘密法廃止を求める人々が国会を大包囲するという幕開けとなりました。
日本共産党は、この国会に秘密保護法廃止法案を提出します。
総理は、秘密法を強行した翌日、「私自身がもっと丁寧に時間をとって説明すべきだったと、反省しています」とのべました。この言葉が真実のものであるならば、総理は、廃止法案の審議に「丁寧に時間をとって」応じるべきです。
総理にその用意がありますか。廃止法案の成立のため党派を超えた共同を呼びかけるとともに、総理の答弁を求めるものです。
「経済の好循環」を実現するというなら――二つの転換を提起する
総理は、施政方針演説で、「『経済の好循環』を実現し、景気回復の実感を全国に届ける」とのべました。私は、総理が、本気で「経済の好循環」を実現するというのなら、二つの点で、従来の方針の根本からの転換が必要だと考えます。
4月からの消費税8%への引き上げを、このまま実施していいのか
その一つは、4月からの消費税の8%への引き上げを、このまま実施していいのかという問題です。
総理は、「景気回復の裾野は、着実に広がっている」とのべました。しかし、日本経済の実態は、それとはかけ離れたものとなっています。
異常な金融緩和によって株価は上がりましたが、庶民への恩恵はなく、円安による燃料、原材料、生活必需品の値上がりが家計と中小企業を苦しめています。2013年7〜9月期のGDP(国内総生産)の実質成長率は、年率換算で1・1%にとどまり、1〜3月期の4・5%、4〜6月期の3・6%を大幅に下回り、経済の減速傾向が明瞭となりました。しかも、その中身を見ると、家計消費や設備投資は低迷し、GDPの伸びをかろうじて支えているのは、消費税増税を前にした駆け込み需要と、公共事業の積み増しという一時的なものにすぎません。何よりも働く人の賃金は、18カ月連続で減少を続け、ピーク時に比べて70万円も減っています。
このような経済情勢のもとで、消費税増税で8兆円、社会保障の負担増・給付減をあわせれば10兆円という史上空前の負担増を強行すればどうなるか。国民の暮らしに大打撃をあたえ、日本経済を壊し、財政も共倒れという「悪循環」の引き金を引くことになることは、明らかではありませんか。
総理は、中小企業に対して「万全の転嫁対策を講ずる」とのべました。しかし、全国中小企業団体中央会が1月に発表した景況調査では、多くの中小企業から、「現状でも、原材料高、燃料高を販売価格に転嫁できない」との訴えがされています。総理は、このような実態をご存じですか。現状でも転嫁できずに苦しんでいるのに、このうえ増税分を転嫁する保障がいったいどこにあるのですか。
消費税大増税の一方で、大企業には大盤振る舞いの減税が行われようとしています。復興特別法人税の廃止に続き、総理はダボス会議で法人税減税を国際公約しました。「国土強靱(きょうじん)化」の名で東京外郭環状道路をはじめ三大都市圏環状道路、国際コンテナ港湾など、巨大公共事業に、巨額の税金が投入されようとしています。今後5年間に24兆6700億円の軍事費をつぎ込む、大軍拡の道に踏み出そうとしています。
消費税大増税と一体で政府が行おうとしている「社会保障制度改革」の内容は、医療・介護・年金など、あらゆる分野で負担増と給付減を押し付け、その総額は試算できるものだけで3兆円を超えます。
結局、消費税大増税の目的は、「財政再建のため」でも、「社会保障のため」でもない。消費税増税で吸い上げた税金を、大企業減税と巨大開発、軍拡予算に流し込む――これこそ事の真相ではありませんか。
総理が本気で「経済の好循環」を実現するというのなら、4月からの消費税増税の実施は、いまからでも中止すべきです。応能負担――負担能力におうじた負担の原則に立ち、富裕層と大企業に応分の負担を求める税制改革こそ行うべきです。総理の答弁を求めます。
どうやって賃上げをはかるか――三つの政策の実行を求める
いま一つは、どうやって働く人の賃上げをはかるのかという問題です。賃上げが「経済の好循環」を実現するカギであることは、総理も認めるところだと思います。であるならば、私は、次の三つの賃上げ政策を実行することを政府に求めるものです。
大企業内部留保一部を活用
第一は、270兆円にのぼる大企業の内部留保の一部を賃上げに活用することを、経済界に正面から提起することです。
昨年末、総理が出席した政労使会議がとりまとめた合意文書には、「まずは経済の好転を企業収益の拡大につなげ、それを賃金上昇につなげていく」と記されています。こうした「企業収益の拡大」先にありきという姿勢では、企業内部に大量の資金が滞留していても、もっともうけが増えなければ賃上げをしなくてもよいということになります。これでは、賃上げはいつまでも先送りされてしまうではありませんか。
総理は、昨年の臨時国会で、わが党議員の質問への答弁で、内部留保の活用を政労使会議で「お願いする」と約束したはずです。ところが合意文書には内部留保という言葉さえありません。総理はこの約束を果たされたのですか。政府として、内部留保の活用を正面から提起し、賃上げの実行を迫る意思はありますか。
最低賃金の抜本的引き上げ
第二は、最低賃金の抜本的引き上げと、そのための財政出動を行うことです。
総理は、「賃上げする企業を応援する税制を拡充する」と言いますが、雇用の7割を支えている中小企業の7割は赤字経営です。法人税を減税しても恩恵はなく、賃上げの促進にはなりません。
中小企業に賃上げを波及させる最も効果的な方法は、中小企業への直接支援を行いながら、最低賃金を引き上げることです。アメリカでは最低賃金引き上げのために5年間で8800億円の中小企業支援を行っています。フランスでは3年間で2兆2800億円の社会保険料の軽減を行っています。ところが日本では最低賃金引き上げのための中小企業支援は、この3年間でわずか99億円にすぎません。
総理、賃上げのための財政出動というならば、最低賃金引き上げのための中小企業支援を抜本的に拡大すべきではありませんか。
雇用のルールを強化
第三は、雇用のルール破壊をやめ、人間らしく働ける雇用のルール強化をはかることです。
安倍政権は、「世界で一番企業が活躍しやすい国」のスローガンのもと、派遣労働の無制限の拡大、解雇の自由化、「サービス残業」の合法化を進めようとしています。どれも財界が人件費削減のために要求してきたことです。こんなことをやってどうして賃上げになるのか。政府主導の「賃下げ政策」ではありませんか。
いま取り組むべきは、労働者派遣法の抜本改正、均等待遇のルールの確立、ブラック企業の規制など、人間らしく働くことを保障するルールの確立であります。それこそが、非正規社員から正社員への道を広げ、働く人の所得を増やす道ではありませんか。
以上、三つの賃上げ政策について、総理の答弁を求めるものです。
原発に対する基本姿勢――「原発ゼロ」、再稼働の是非を問う
政府は、原発を「基盤となる重要なベース電源」として、将来にわたって活用し、「再稼働を進める」と明記した、エネルギー基本計画を閣議決定しようとしています。原発に対する基本姿勢について、二つの点を総理にただしたい。
第一は、安倍政権は、「原発ゼロ」という目標を投げ捨てるのかという問題です。民主党政権が定めた方針には、「2030年代に原発ゼロ」という政府としての目標が明記されていました。ところがエネルギー基本計画には、「原発ゼロ」という目標は影も形もありません。総理も、「原発依存度の低減」はのべても、「原発ゼロ」は一切口にしません。しかし、どんな世論調査でも、原発の今後について、「今すぐ廃止」「将来は廃止」をあわせると7〜8割にのぼります。安倍政権の方針は、この圧倒的民意に背いて、将来にわたって原発との共存をはかるというものなのですか。しかとお答えいただきたい。
第二は、原発再稼働の問題です。原発事故の被害は、今なお深刻さを増し、福島では14万人もの方々が先の見えない避難生活を強いられています。事故は収束するどころか、放射能汚染水が制御できない非常事態が続いています。原発事故の原因は、いまだ究明の途上にあります。こうした状況のもとでの再稼働など論外ではありませんか。
再稼働をすれば、「核のゴミ」が増え続けます。エネルギー基本計画は、「最終処分」を「将来世代に先送りしない」としています。しかし、いったい日本のどこを「最終処分」の場所にするというのか。まったく見通しがないではありませんか。
最近の世論調査で、「安全性が確認された原発」の再稼働に、60・2%が「反対」と答えているのは、当然であります。総理自身、「(再稼働を)決断するときには秘密保護法以上に国民世論は厳しくなるかもしれない」とのべている通りです。総理にうかがいます。かりに国民の理解が得られなくても、原子力規制委員会が「安全」との判定を下せば、再稼働を強行するおつもりですか。
現在、すべての原発は停止しています。このまま再稼働せずに、廃炉に向かうことこそ、最も現実的で責任ある態度ではありませんか。
「即時原発ゼロ」を政治決断し、再生可能エネルギーの思い切った普及と低エネルギー社会への転換に力をそそぐことこそ、国民の命と安全に責任を負うべき政府が選択すべき道であります。答弁を求めます。
沖縄米軍基地――政府の姿勢は民主主義を否定する行為ではないか
米軍の新基地建設問題が最大の争点となった沖縄・名護市長選挙で、「辺野古(へのこ)の海にも陸にも基地はつくらせない」と公約した稲嶺進市長が、新基地推進を主張した自民党推薦候補を大差で打ち破り、圧勝しました。強圧をもちい、札束をちらつかせて、基地受け入れを迫った安倍政権の卑劣なやり方に、沖縄は屈しなかったのです。政府は、この結果を重く受け止めて新基地建設をきっぱり断念すべきであります。
総理は、施政方針演説で、名護市長選挙の結果については一言も触れず、新基地建設を強行する姿勢を示しました。
沖縄の地元紙は、「選挙という民主主義の手続きで示された名護市民の多数意思を完全に無視するやり方は、…民主主義を否定するものだ」、「世界中捜しても民意をこれほど露骨に踏みにじる『民主主義国家』は存在しない」と、そろって、安倍政権の暴走を民主主義への挑戦と指弾しています。
総理、名護市民が選挙で下した審判を無視し、7割を超える県内移設反対の県民の声を踏みつけにすることが、民主主義を否定する行為だとは考えないのですか。しかと答弁をいただきたい。
普天間基地は、もともと米軍の無法な土地強奪のうえにつくられた基地であります。返還に条件をつけること自体、許されないことです。普天間基地の無条件撤去を求めて、対米交渉を行うことを、強く求めるものであります。
靖国神社参拝問題――侵略戦争を肯定・美化する一切の言動を慎むことを求める
総理は、昨年12月26日、靖国神社参拝を強行しました。
靖国神社は、戦争中は、国民を戦場に動員する道具とされた神社でありました。この神社は現在も、日本軍国主義による侵略戦争を、「自存自衛の正義のたたかい」「アジア解放の戦争」と美化し、宣伝することを存在意義とする特殊な施設となっています。侵略戦争を引き起こした罪に問われたA級戦犯が、“連合軍による一方的な裁判で濡れ衣(ぬれぎぬ)を着せられた犠牲者”として合祀(ごうし)されています。
この施設に総理が参拝することは、総理がどのような意図をもっているかにかかわりなく、侵略戦争を肯定・美化する立場に、自らの身を置くことを世界に向かって宣言することにほかなりません。
第2次世界大戦後の国際秩序は、日独伊3国による侵略戦争を不正不義のものと断罪することを共通の土台としています。総理の行動は、今日の国際秩序に正面から挑戦するものであり、断じて許されるものではありません。
総理の靖国参拝に対して、中国政府、韓国政府は、厳しい抗議を表明しました。米国政府も「失望した」と、異例の批判を行いました。さらに批判は、国連事務総長、欧州連合、ロシア政府、シンガポール政府などにも広がりました。
総理、あなたは自らがよって立つ特殊な右翼的勢力――「靖国」派にこびを売る行動によって、国際社会の信頼を失い、とりわけ近隣諸国との友好という国益を大きく損なったのです。その自覚と反省はありますか。
今後、靖国神社への参拝はもとより、「村山談話」の見直しなど、過去の侵略戦争を肯定・美化する一切の行動、言動を厳に慎むことを、私は厳しく求めるものです。
日本共産党は、侵略戦争と植民地支配に命がけで反対を貫いた党として、歴史問題での逆流を日本の政治から一掃するために全力をあげてたたかう決意を表明して、質問を終わります。