2014年1月26日(日)
NHKはいま
経営委員がふまえるべき精神とは―百田尚樹氏の乱暴な言説
昨年11月にNHK経営委員に就任した作家の百田尚樹(ひゃくた・なおき)氏が、都知事選告示を前にした18日、みずからのツイッターに「私が東京都民だったなら、田母神俊雄氏に投票する」と書き込んだことが問題になっています。
放送法第1条2項は「放送の不偏不党、真実及び自律」を定めています。NHKの最高議決機関である経営委員会の委員はこの条項を誠実かつ積極的に守る必要があります。百田氏の言動は都知事選直前の時期の極めて挑発的で露骨な政治的発言です。経営委員としてふさわしくないとの批判が起こるのは当然です。
しかし百田氏はツイッターで反論します。「『NHKの経営委員がそんなことをツイートしていいのか?』という非難のリプライが多数寄せられた。まとめて答えてやる。いいんだよ!!」。
根幹にかかわる
何とも下品で荒っぽい反論です。確かに放送法や経営委員の服務に関する準則に各委員の政治的発言を禁止する条項はありません。しかし、経営委員については放送法では「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者」とされ、準則では「経営委員会委員は、放送が公正、不偏不党な立場に立って…健全な民主主義の発達に資する」ことを「自覚」するよう求めています。この精神に立つ限り「いいんだよ」と開き直ることはできないはずです。
2007年経営委員長に就任した古森重隆氏(当時富士フイルム社長)が、自民党議員の励ます会に出席し「応援をよろしく」と述べたことが批判された事例とまさに同一です。
百田氏のツイートは、経営委員になったばかりの昨年11月にも問題になりました。「NHKが日本の国営放送として国民のためになる番組や報道を提供できる放送局になれば素晴らしいこと」と書いたのです。
戦前、国家の宣伝機関の役割を果たした痛苦の教訓から、戦後NHKは、視聴者に支えられる公共放送として出発しました。公共放送か国営放送かはNHKの根幹にかかわる問題です。当然大きな批判が起きました。
視聴者には悲劇
しかし百田氏は「ついうっかりNHKを国営放送と書いてしまったが、私のアンチが鬼の首を取ったみたいにおおはしゃぎ」とこれまた開き直り。NHKのことを少しでも理解するなら、「ついうっかり」でも「国営放送」などと書くことはできないはず。この段階で経営委員失格です。
経営委員はNHKの番組に介入することはできません。しかし、事業内容、予算の承認、NHK会長の任命、NHK役員の職務の執行の監督など絶大な権限があります。それは権力から自立した視聴者のためのNHKをつくるための権限です。
ただ現実には権力に最も近い人びとが経営委員に送り込まれています。まるで喜劇です。しかし視聴者にとっては今すぐにもやめてほしい悲劇でもあります。(荻野谷正博)