2013年12月29日(日)
高血圧学会の理事長・理事に
新薬企業が3億円
医学情報誌で評価、宣伝材料に
臨床データねつ造が発覚した「ディオバン」と同じタイプの高血圧治療の新薬を製造する製薬企業が日本高血圧学会の理事長と理事をつとめる大学教授2人に5年間で総額3億円を超える奨学寄付をしていたことが28日、本紙の調べでわかりました。巨額寄付の背景には、有力研究者の発言を高薬価で高い収益が期待できる高血圧治療新薬の市場争いで利用する製薬業界のマーケティング戦略が浮かびあがります。(矢野昌弘)
|
寄付の実態は、2人の教授が所属する西日本の国立大学への情報公開で本紙が入手した資料で判明しました。
日本高血圧学会理事長のA教授は、製薬企業9社から総額1億8270万円(2007〜11年度)、理事のB教授は33社から2億880万円(同)の奨学寄付を受けています。
両教授への寄付は、ディオバンを製造するノバルティス社をはじめアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)と呼ばれる高血圧治療薬をつくる企業から集中しており、1社ごとの額も多いことが特徴です。
A教授は7社で1億7050万円(93%)、B教授は10社で1億3150万円(63%)となっています。
各社の“稼ぎ頭”
とくに寄付が多かった07年度を見ると、第一三共が両教授にそれぞれ1000万円、ノバルティス社がA教授に2500万円を寄付していました。
ARB剤は高血圧に効果があるだけでなく、「脳卒中や狭心症を減らす効果がある」として、シェアを拡大。年間売上げは、約1兆円の医療用降圧剤市場のうち、約5000億円とされており、各社の“稼ぎ頭”となっています。
日本高血圧学会は、高血圧治療の指針を定めたり大規模な臨床試験を実施するなど、高血圧治療に大きな影響力を持ちます。
同学会の理事長、理事である両教授とも、医学情報誌などで、各社のARB剤を評価する発言をおこなっています。これらの医学情報誌は、自社製品の宣伝材料として利用されています。
報告義務なし
A教授は「我々の検討では、バルサルタン(ディオバンの一般名)が認知機能の低下を改善するとのデータが得られました」(11年1月発行の『日経メディカル』)、B教授は「(ARB剤は)降圧作用だけでなく臓器保護作用があるということが明確に示されています」(ノバルティス社のホームページ)などと発言しています。
両教授は、こうした多額の寄付と発言との関係について本紙の取材に「影響はありません」(A教授)、「全くありません」(B教授)としています。
「奨学寄付」は、企業や団体が、寄付先の教授を指定して大学経由で行われ、使い道について報告義務はありません。
患者にディオバンを投与する臨床研究を行った東京慈恵会医大、京都府立医大、滋賀医大、名古屋大、千葉大の5大学に、ノバルティス社が多額の寄付をしていることがわかっています。
|