2013年10月16日(水)
きょうの潮流
「日本は戦争をしない国になった。学校でそう教えられた日のきれいな青空は今も忘れられません」▼「憲法を考える日本ペンクラブの集い」(10日)で作家の阿刀田(あとうだ)高さんは語りました。軍人になって国のために死ぬんだと思っていた少年は1945年8月、疎開先の新潟県長岡市ですさまじい空襲に遭い、母と子のおびただしい焼死体を見ます。10歳でした▼衝撃と悲しみ、怒り。「アメリカに復讐(ふくしゅう)する」と決意を固めるも、間もなく敗戦。国民学校に戻ってしばらくしたある日、国語の先生がこれからの日本の平和主義について話してくれました▼「戦争をしないという手があったのか!」。恨みに燃えていた心が一転、頭上の青空のように澄み渡り、洋々たる未来に胸が高鳴りました。「日本国憲法は、世界を信じます、丸腰になります、と宣言した。平和憲法を守ることは命がけだと思っています」▼パネリストの作家たちは、それぞれの人生とともにあった憲法を語りました。日本ペンクラブ浅田次郎会長は自衛官の経験から自衛隊の非日常性を、加賀乙彦さんは陸軍幼年学校時代の階級制の過酷さを、保阪正康さんは聞き取りを続けてきた元兵士の証言を、下重(しもじゅう)暁子さんは職業軍人だった父の戦後の落はくを▼誰にとっても憲法は日々の生活と無関係ではありません。平和、自由、環境、家族、雇用、社会保障―。自らの直面する問題を通して憲法を語ること。豊かな議論は、憲法を否定しようとする動きをはねかえす力になります。