2013年10月12日(土)
水銀水俣条約
日本・世界の課題は
被害者救済へ 日本が主導を
水銀を国際的に規制する「水銀に関する水俣条約」が139カ国・地域から約1000人が参加した外交会議(熊本市・水俣市)で10日、採択され、同日までに日本を含む87カ国・地域が署名しました。一つの物質の採掘から利用、廃棄にまで規制をかける世界でも珍しい条約です。今後の課題は―。(君塚陽子)
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今後、50カ国が批准すれば条約は発効します。主催した国連環境計画(UNEP)は2016年までの発効をめざすとしています。
外交会議に参加した世界最大の水銀排出国、中国は署名しましたが、化学物質・廃棄物に関する条約をこれまで締結したことがない米国は署名しませんでした。署名は来年まで続ける予定です。
金採掘の現場では精錬に水銀が使用されます。条約は、最大の排出源である小規模金採掘について「削減」を掲げたものの、「可能であれば廃絶」として禁止していません。貿易も禁止していません。総じて自主的な条項が多くなっています。
有害物質のない社会をめざす国際環境NGO(非政府組織)、「IPEN」のユーユン・イスマワティさんは、「アフリカ、中南米など80カ国、数百の小規模金採掘の現場で女性や子どもが働き、水俣の悲劇が再び起ころうとしている。水銀の輸出は、“危険”を他国に輸出することだ」と訴えます。
安倍首相が9日、ビデオメッセージで世界からの参加者を前に、“水銀被害を克服した日本が世界の先頭に立つ”などと発言。強い反発が起こっています。約7200人の患者を擁する水俣病不知火患者会の大石利生会長は、「ふざけるなという気持ちだ。いまだに多くの被害者が裁判をたたかっている。世界に向けて『克服した』なんていう発言は許されない」と憤りました。
首相は同時に、途上国への環境対策として今後3年間で総額20億ドルの支援を表明しました。しかし、その中身は、「高効率の石炭火力発電所の建設」「下水道施設の整備・改築」「廃棄物焼却施設の建設」などで、NGOからは環境汚染を悪化させるとして、批判の声が上がっています。
【水銀の排出】
水銀は揮発性が高く、火山活動など自然由来以外に産業活動によって環境に排出され、全世界を循環しています。生物に蓄積し、人や動物の神経系に有害な影響を与え、特に胎児・子どもへの影響が大きいのが特徴です。
国連環境計画(UNEP)によれば、世界の水銀の排出量は約2000トン(2010年)。2大排出源は、小規模金採掘と石炭火力発電所で、アジアからの排出が世界の半分を占めています。
【水俣条約】
主な項目は▽新規の鉱山開発の禁止。既存鉱山は発効から15年以内に禁止▽水銀の輸出入を制限▽一定量以上の水銀を含む製品の製造・輸出入を2020年までに禁止(製品には適用対象外あり)▽製造プロセスへの水銀の使用の禁止・削減(2025年など。国によって延長可)▽小規模金採掘での水銀使用・排出を削減▽石炭火力発電所などを対象に削減対策▽適正な保管・廃棄▽資金や技術支援など。