2013年10月10日(木)
きょうの潮流
ヤマトシジミという蝶(ちょう)がいます。貝にも同じ名前があって、そちらの方が知られているかもしれません。蝶は公園や道端にも生えているカタバミという植物が大好物で、これを食べて成長するせいか、どこでも見られます▼大きさが1〜2センチと小さく、地面近くを飛んでいるため、その存在に気づかない人もいるでしょう。でも、夏が過ぎ大きな蝶の姿もめっきり少なくなるころ、ちらちら飛び回る蝶が目に入ってくるはずです。羽を広げたオスは淡いブルーが美しい▼この蝶が、東京電力福島第1原発事故による放射能の影響を調べる生物として注目されています。琉球大学の大瀧丈二氏が研究内容を紹介しています(『科学』9月号)。たとえば事故から数カ月後に福島県から採集したカタバミを、沖縄県で採集したヤマトシジミに食べさせています。すると、カタバミの放射線量に応じてヤマトシジミの死亡率が上昇したとのこと▼「ヤマト(大和)」という名前にあるように、国内に広く分布しています。しかし、あまり遠くへ移動しないので、地域の環境変化が生物に与える影響を調べるのに適しているようです▼ヤマトシジミは葉っぱや花に止まると、左右の後ろ羽を互いにすり合わせる行動をします。人間の目にはかわいらしく映りますが、これは外敵の目を尾に引きつけるためのカムフラージュの行動だとの話も▼必死で生きているのでしょう。小さな生きものが教えてくれることはたくさんあります。なにより大事故の証言者です。