2013年10月5日(土)
みずほ銀と暴力団
底知れぬ闇
「提携ローン」 銀行は損失ゼロ
反社会的勢力との暗い過去を清算できていなかったのか―。日本を代表する巨大企業、みずほ銀行の信頼が揺らいでいます。同行は「反社会的勢力との断固対決」をうたいながら、暴力団員らへの融資を2年以上放置してきました。上司にたてついてでも銀行員としての誇りを守る、テレビドラマのようなヒーローはいませんでした。(佐久間亮)
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「市民社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力とは、断固として対決します」。みずほグループの「企業行動規範」は、闇勢力との「対決」をうたっています。ところが今回、みずほ銀行が暴力団員に融資を実行し、役員がそれを知りながら2年以上も対策をとらずに放置していたことが発覚しました。みずほ銀行は社会に「ウソ」を表明していたことになります。
金融庁によれば、同庁の聞き取りに対し、みずほ銀行の担当役員はこう語りました。
「仕組みを所与のものと思っていた。変えられるとは思っていなかった」「審査をかいくぐってきたものについては融資せざるを得ないと思い込んでいた」
この担当役員が語った「仕組み」というのが、銀行と顧客の間に信販会社を仲介させる「提携ローン」と呼ばれるシステムです。
自動車などを購入する際、顧客は銀行と提携する信販会社とローンの契約を結びます。支払い能力など、顧客審査は信販会社が行います。その審査結果をもとに銀行が顧客に融資します。融資が焦げ付いた場合や融資先が暴力団員だと発覚した場合には、銀行は信販会社から返済を受けるため、損失が生じない仕組みになっています。
みずほ銀行は2010年12月まで独自の審査をしてきませんでした。融資審査を信販会社に丸投げしていたのです。10年末以降に既存の融資について独自の調査を始めたことで初めて暴力団員への融資が発覚。12年9月時点で約230件、約2億円に上りました。信販会社と銀行の審査力の差を、反社会勢力に突かれたのです。
みずほ銀行は暴力団員への融資が明らかになった後も信販会社に返済を求めず、追加の取引を拒むよう指示するにとどめてきました。12年12月の金融庁の立ち入り検査によって問題が発覚したことで、今年5月、ようやく返済を請求しました。
暴力団員への融資情報は一部の担当役員のところで止まっていました。経営会議やコンプライアンス(法令順守)会議にかけられることもありませんでした。
金融界と闇の勢力との関係は、これまでも繰り返し問題になってきました。三井住友銀行は「みずほ銀行と同様な提携ローンは取り扱っていない」とし、三菱東京UFJは「事前に、銀行として審査している」としています。しかし、みずほ銀以外の金融機関に問題がないのか、検証が求められます。
「オリコ」仲介 焦げつきも
暴力団員への融資はどうなったのか。信販会社を監督する経済産業省は、個々の融資の調査はこれからだと語ります。みずほは4日の記者会見で回収不能の債権もあると認めました。
問題となっているのが、信販会社・オリエントコーポレーション(オリコ)です。筆頭株主はみずほフィナンシャルグループ(10年にグループ会社化、株式保有24・6%)。社長の齋藤雅之氏は、みずほ銀行の前身第一勧業銀行出身と、完全な身内企業です。暴力団員への融資すべてが、このオリコを仲介して行われていたのです。
事実、みずほ銀行が信販会社に対し暴力団員関連の融資返済を求めた5月、オリコはみずほ銀行から約150件の返済請求を受けています。経産省は1日、オリコに対し事実関係や再発防止策を16日までに報告するよう命じています。
オリコの契約書には顧客が反社会的勢力だと分かったときは、契約解除や損害賠償を求めることが書かれています。オリコは、みずほ銀行から10年末以降、暴力団員の融資情報を知らされていたにもかかわらず、契約解除などの措置を講じてきませんでした。みずほグループ全体で暴力団員への融資を放置してきた形です。
今も引きずる?暗い過去
みずほ銀行は、これまでにも闇勢力との癒着が何度となく問題となってきました。
1991年には、前身の一つ、富士銀行による約2600億円にも上る架空預金が発覚。
系列のノンバンク「芙蓉総合リース」とあわせ50億円に上る資金を広域暴力団山口組系の企業に融資していたことも明らかになりました。
97年には、同じく前身の一つ第一勧業銀行による総額118億円に上る総会屋への利益供与が大問題となりました。第一勧銀の前会長、副頭取、元常務らが次々と逮捕され、元会長が自殺する事態に発展しました。
2006年には、指定暴力団住吉会系の企業に法人や個人の顧客情報1200件を渡していたとしてみずほ銀行業務監査部調査役が逮捕されています。
ある金融ジャーナリストは「暗い過去を簡単に切れるわけではない。いまも引きずっているのではないか」と指摘しています。
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