2013年10月4日(金)
「宗派対立」イラク泥沼
米軍分断統治の遺産 隣国シリアの内戦
イラクで「宗派対立」にもとづくテロ・暴力の激化が止まりません。この9月だけで1000人近くが死亡し、今年に入ってからは約6000人が命を落としています。米軍が同国に対する戦争・占領を強行してから10年。イラク情勢はいま、隣国シリアでの内戦の影響も受けつつ、まさに泥沼状態に陥っています。 (カイロ=小泉大介)
「バグダッドでの生活は本当に極限の状況となっています。私の13歳の息子は2週間前、買い物に行った市場で爆弾テロに見舞われ、片足を失いました。サッカー選手になるのが夢だった彼をどう励ましていいのか、いまだに言葉が見つかりません…」
首都に住む公務員の男性、ハッサン・バグダーディさん(36)は本紙の電話取材に対し声を震わせながら語りました。バグダッドでは現在、モスク(イスラム教寺院)や市場、レストランなど不特定多数の人が集まるさまざまな場所がテロの標的となっています。安全な場所はどこにもないといいます。
同国には、バグダーディさんと同じイスラム教シーア派教徒(人口の約6割)、同スンニ派教徒(同約2割)、クルド人(同約2割)が暮らしています。米軍による分断統治により顕在化したシーア派とスンニ派の対立は2006年から翌年にかけて「内戦状態」といえる事態をもたらしましたが、11年末の米軍「完全撤退」以降、再び同じような状況に直面しているのです。
スンニ派有力政治家が「イランに支援されたシーア派のマリキ首相の政党に関連する武装勢力が暴力に加わっている」といえば、マリキ首相は「外国が暴力を扇動している」と述べて、スンニ派の盟主を自任するサウジアラビアを名指しするなど、周辺国を巻き込みながら非難合戦を繰り広げています。
現在の「宗派対立」激化についてイラクの政治評論家であるサアド・フダイシ氏は「シリアにおける宗派対立の影響を否定できない」と指摘します。
シリアでは、アサド政権の権力基盤で、シーア派の一種とされるアラウィ派がスンニ派住民を弾圧したことをきっかけに出口の見えない内戦状態に陥っています。
周辺国の関与でいえば、イランがアサド政権の後ろ盾となり、サウジアラビアなどが反体制派を強力に支援する構図となっています。
イラクにおける爆弾テロでたびたび犯行声明を出している国際テロ組織アルカイダ系のスンニ派グループが「イラクとシリアのイスラム国家」と名乗っているように、両国を行き来する武装勢力の存在も明らかとなっています。
シリア内戦の打開がなければイラクの治安改善も不可能のようにも見えます。
この点について、フダイシ氏は「イラクとシリアが互いに否定的影響を及ぼしていることは確かですが、イラクの将来はあくまでイラク人が決める問題です」と指摘。そのうえで、事態打開の方向についてこう強調しました。
「まずはイラクの政治家や政党が、問題の根本にある米軍の占領政策の誤りを真剣に清算し、敵対関係を解消する。そして宗派や民族の違いを乗り越えた全国民的な国家計画の策定にあたることが必要です。来春には総選挙が予定されており、それを機に政治地図を塗り替えなければなりません」