2013年9月8日(日)
ブラック企業 変えよう職場
嫌がらせ 退職強要の末 ロックアウト解雇
日本IBMひどい
人間らしく働ける会社へ たたかう女性
日本IBMは、大阪事業所で働く40代の女性労働者に対し、突然解雇を通告して職場から閉め出す「ロックアウト解雇」を強行しました。女性は8月、解雇撤回を求めて、大阪地裁で裁判に立ち上がりました。人権を踏みにじる「ブラック企業」と化した会社を、人間らしく働ける会社へと、ただすたたかいです。(田代正則)
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育児しながら働くこの女性は、何度もいやがらせや退職強要にあい、それを拒否するためにJMIU(全日本金属情報機器労働組合)に加入して、働き続けてきました。その働きたいという願いを打ち砕く解雇。
「いわれなき理由で解雇を受け、子どもに『あなたたちの将来には、こんな社会が待っている』とは言えません。いま、私がたたかわなければならないと思ったんです」。子どもの話になると思わず涙がこみあげます。
解雇撤回裁判の提訴をした今も、女性は子どもに自分が解雇されたと話すことができません。朝、家を出て、JMIUの事務所に行きます。裁判に向けた勉強をする毎日です。
大学院で数学を学び、日本IBMに入社したのは、1992年のことでした。この会社を選んだ理由は、「男女平等で、やりがいがありそうだと思ったから」です。
男女雇用機会均等法が施行された86年から6年たっていましたが、当時の日本企業では、女性は総合職でも制服着用・お茶くみをさせられる現実がありました。
「自由と平等の国」アメリカに本社をもつIBMならバリバリ働けるに違いない、と希望をもって働き始めました。仕事は、システムエンジニア(SE)。企業でコンピューター導入がすすむ時代、顧客企業などでシステムを設計してプログラムする業務です。
「現在のように市販のソフトもないので、顧客の要望に応じて一からプログラムしました」
仕事の完成期日が迫ると終電に間に合わず、タクシーで帰宅することもたびたびでした。
男性同様に働けば、高い評価を受けられる「女性にやさしい会社」。妊娠するまでは、そう思って頑張っていました。
日本IBMはいまでも、「女性の活躍を支える」「子育て応援」企業だとアピールしています。「均等・両立推進企業表彰 厚生労働大臣最優良賞」を2回受賞した初の企業だと誇っています。
「たしかに、時間短縮勤務などの制度はあります。でも、実際に使っている人はほとんどいない。『活躍』している女性は条件の恵まれた一部の人だけです」と女性は語ります。最後に所属した部署で、時短勤務を申請したのは自分ひとりきりでした。
「最低評価」で15%賃下げ■「人減らし」組合員狙い撃ち
明るい未来へ たたかう
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大阪で日本IBMにロックアウト解雇された女性が、産休・育休を取ったころから、会社の対応が変わっていきました。育児をしながらの「普通」の働きでは、評価されなくなりました。
2005年、挽回したいと無理をしました。評価につながりそうな仕事は何でも引き受け、朝、子どもを保育所に連れて行き、仕事をして、子どもを家に連れて帰った後も、自宅で夜遅くまで仕事の提案書や資料を作成しました。
そんなある日、子どもを保育所にあずけて、自転車に乗っていたところ、自動車に追突されて3日間入院しました。
ほどなくして、会社で部署異動を命じられました。仕事はありませんでした。以前から付き合いのある顧客の仕事を提案しても、「やるな」と言われました。いまでいう「追い出し部屋」です。
06年5月から、個人面談による退職強要が始まりました。「子どもが大きくなったら、またバリバリ働きたい」と断りました。「家族とも相談してみてよ」と言われ、翌週も「相談してみて、どうだった?」と面談が続きました。働き続けても冷遇するという脅しが4カ月間も繰り返されました。
JMIU加入
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06年9月、退職強要を拒否するため、JMIU(全日本金属情報機器労働組合)日本IBM支部に加入しました。外資系である日本IBMは、一般的な日本の大企業と違い、労働組合をつくらせません。そのなかで、JMIUが労働者への人権侵害をやめさせ、雇用と労働条件を守るため、粘り強く組織を維持しています。
女性は、入社してしばらくの間、JMIUの存在を知りませんでした。退職強要を受け、頼れる相談相手を探し、最後の希望をかけて、初めて組合事務所に電話しました。
JMIUに加入すると、パタッと面談がなくなりました。しかし突然、07年1月からの降格を告げられました。
それまでの「ITスペシャリスト」の職位から、新入社員以下の職位に落とされ、雑用をすることになり、「仕事を与えるだけの能力がない」と言われました。「屈辱を与えて、退職するよう仕向けたんだと思います」
日常的に脅し
女性は負けずに、時間短縮勤務制度を利用し、育児しながら働き続けました。時短勤務は、労働時間が6割になる代わりに賃金も6割になる制度。会社に損はありません。しかし12年6月、上司から「時短勤務の申請をこれ以上するな。申請しても突き返す」と却下されました。
13年6月21日、上司が「ちょっと」と呼び出しました。「仕事を頼まれるんかな」と期待した女性に待っていたのは、「ロックアウト解雇」でした。25日までに自己都合退職か、28日付の解雇かを選ぶよう通告され、そのまま会社を追われました。
日本IBMで育児中の女性に対する退職強要は日常的に行われている、とJMIUは指摘します。最近も、20代の女性が育休から戻ってすぐ、上司から「最低評価を付け続ける」と宣告された、という相談がJMIUに寄せられています。
日本IBMでは、最低評価を付けられると15%もの賃下げになります。懲戒でも10%以上賃下げすれば違法なのに(労働基準法91条)、成績評価で15%も下げる問題のある制度です。同制度による脅しで、20代の女性は、泣く泣く退職していきました。
ほかにも、育休中の女性労働者に、早期退職しなければ遠隔地配転すると告げるなど、相談事例は枚挙にいとまがありません。
都労委は断罪
日本IBMは、「ハイパフォーマンスカルチャー(高効率化の文化)」を提唱。毎年1000億円近い経常利益をあげながら、JMIUによれば約1万4000人の労働者を1万人に減らそうとしています。そのために、JMIU組合員を「ロックアウト解雇」で狙い撃ちしています。
昨年から今年にかけて全国で解雇通告を受けたと判明している30人中26人(86・6%)がJMIU組合員です。組合役員が10人。国際労働機関(ILO)結社の自由委員会は、組合役員の解雇は禁止されるべきだと指摘しており、悪質なやり方です。
JMIUでは、東京地裁で5人、大阪地裁で1人が、解雇撤回を求めて提訴。4人が提訴準備中です。東京都労働委員会は8月28日、団体交渉を拒否する会社に対して不当労働行為だと断罪する命令を出しました。
今月4日、解雇後、はじめて会社前の宣伝に参加した女性。「解雇されても、まだ、会社を愛する気持ちもある」と複雑な思いです。マイクで訴えました。
「明日、来年、10年後を明るい未来にするため、組合の支援を受けてたたかいます」