2013年8月27日(火)
きょうの潮流
大学生が就職したい企業のランキングでことしのトップ10を銀行と保険会社が独占したことが春前に話題になりました。規模の大きさや、社風のよさが理由にあがっていました▼あこがれの大銀行を舞台にしたテレビドラマがいま人気です。池井戸潤さんの企業小説シリーズを原作にした「半沢直樹」です。銀行員としての誇りを胸に、会社の不正や上司のいじめに抗する半沢の姿が多くの共感をよんでいます▼「やられたら、やり返す。倍返しだ」の啖(たん)呵(か)が小気味いい。人事が万事という序列組織の悪弊、中小零細企業には冷たい銀行の姿勢を暴き、ドラマに厚みをもたらしています。半沢の「この国で必死に働くすべての人のために銀行はある」とのセリフが胸に迫ります▼『下町ロケット』で直木賞を受賞した池井戸さんも元大手銀行員。小説では、人を描くことにこだわり、大企業のおごりや隠ぺい体質を糾弾する一方で、地道に働く人びとの熱い思いを大切にします▼会社や上司の横暴に声をあげ、悪事や汚職をただしていく半沢。その姿に喝采する現象は、労働者いじめが横行する日本社会の反映なのか。非正規社員がひろがり、働く条件は悪くなるばかり。追い出し部屋や監視部屋のいやがらせも日常化しているのですから▼法律ではなく、社長が会社のルール。そんな非常識がまかり通っている職場も。そのなかで屈せず、人間の尊厳をかけてたたかう一人ひとりの労働者や、労働組合。ドラマではない、現実の姿がそこにあります。