2013年8月26日(月)
政治考
安倍内閣 暴走加速、矛盾は激化
正面対決の共産党に期待
憲法・原発・消費税・TPP
参院選挙での圧勝から1カ月―。安倍内閣の大暴走が加速しています。
―沖縄米軍普天間基地へのオスプレイの追加配備、海外での武力行使を可能とする集団的自衛権の行使をめぐる政府憲法解釈の変更へ向けた強硬な動き。
―終戦の日には、安倍晋三首相が靖国神社に代理を派遣し「玉串料」を奉納。戦没者追悼記念式典の式辞では「アジアへの加害責任への反省」「不戦の誓い」を削除。
―消費税増税へ強引に「景気回復」を宣言し地ならしを進め、医療、介護、年金、保育など社会保障のあらゆる分野での制度改悪と負担増へ向けた「プログラム法案」骨子の閣議決定。
―国民にはまったく内容を知らせないまま秘密交渉を続ける環太平洋連携協定(TPP)では、年内妥結の方向で米側に協力。
―原発問題では、汚染水の危機に手をこまねきながら再稼働反対の国民多数の世論を無視して再稼働に突き進む。
自民党中堅議員の一人は言います。「3年間は選挙がない。選挙を気にせずどんどんやることができる。今回はまさに『黄金の3年』になるか、『真っ黒』になるかはともかく、やるとすれば一番の実行のチャンスだ。安倍首相はやりたくてうずうずしている。集団的自衛権も憲法改正も靖国も、頭の中はいっぱいだ」
一気に解釈改憲
しかし、これらの問題は、危機的な矛盾を激化させつつあります。
集団的自衛権の行使の憲法解釈変更をめぐっては、容認派の小松一郎駐仏大使を強引に法制局長官に当てる人事を閣議決定(8日)。首相の私的懇談会の報告を受け、一気に解釈変更に踏み切る体制の整備と受け止められています。
これに対して最高裁判事に転出した山本庸幸(つねゆき)前法制局長官が、「過去半世紀ぐらい(行使は許されないという)その議論でずっときた」「集団的自衛権というのは、そもそもわが国が攻撃されていないというのが前提になっているので、これについて従来の解釈では(行使は)難しいと思っている」と、異例の政府批判の発言をして注目を集めました(20日)。他の元法制局長官経験者も各種メディアで政府批判を強めています。
改憲派の自民党・山崎拓元副総裁も「長官を代えて解釈を変える手法は、スポーツの試合で自分に有利なように審判を代えるようなもの」(「毎日」20日付夕刊)と批判しました。
安倍内閣で「醜い国」に
靖国参拝や終戦の日の式辞からの不戦の誓いの削除など歴史問題をめぐっては、アジア諸国だけでなく欧米からも批判と不信が強まっています。
英誌エコノミストの記者で長年日本を拠点に海外に記事を発信しているジャーナリストのデビッド・マクニール氏は、「私も韓国でインタビューを重ねてきたが、旧日本軍の犯罪行為の証拠はたくさんあり、隠すのはばかばかしい。これでは『美しい国』ではなく『醜い国』になる。私だけでなく日本にいる多くの外国特派員がそう見ている」と述べます。
日本のマスメディア関係者の一人は、「アメリカも日中韓の関係悪化を厳しく見ている。日韓関係を悪くすることは北朝鮮への対応で連携が機能せず、日中関係を悪くすることは、尖閣での緊張を高め偶発的衝突の危険を高める」と述べます。9月初旬のG20(主要20カ国首脳会議)でも日中、日韓の首脳会談開催の見通しは立っていません。
環太平洋連携協定(TPP)では、交渉に正式参加したのに、「守る」としてきた農産物5品目の例外化の交渉にすら入れていません。一方で、参加国に厳しい守秘義務が課された結果、交渉経過に関する情報が得られず、20日の自民党部会では「(経過を)公表しないなら議論できない」(細田博之幹事長代行)など自民党内からも不満が噴出。保利耕輔・同党農林水産戦略調査会顧問は、「守秘義務があるから言えないということなら、与党として政府を支えきれなくなる」と批判しました。
消費税増税へ向けて政府は選挙直後の「月例経済報告」で「景気回復」を宣言(7月23日)。財務省を先頭に政府・与党内では“増税断行”の声が強まっています。
しかし、安倍首相の経済ブレーンといわれる浜田宏一エール大学教授、本田悦朗内閣参与(静岡県立大学教授)などは、「デフレからの脱却が明確でない状況で増税すべきでない。増税見送りを」と発言しており、意見対立が表面化。「1%ずつの増税」という主張も出されていますが、「法改正も必要だし、そんな複雑なことはできない。内閣参与が、勝手なことを言っている」(自民党議員)など、内紛状態になっています。
原発問題では、福島第1原発事故の現場における汚染水による地下水汚染と海への流出に加え、汚染水貯蔵施設からの漏水で「レベル3」の「重大事象」に発展しています。「事故収束」宣言を取り消し、事故対策を抜本的に見直し再構築するきっきんの課題があります。
暴走したら「つぶれる」
なぜ暴走のたびに矛盾が激化するのか…。それはどの問題でも国民の信任を受けておらず、多数世論に逆行しているからです。「毎日」(7月27、28日)の世論調査では、集団的自衛権の行使をできるように「したほうがいいと思わない」が51%という結果がでました。
消費税増税でも「毎日」調査で「予定どおり引き上げるべきだ」が26%に対し、「先送り」が36%、「現在の5%を維持」が35%。「読売」8月11日付では、「予定通り引き上げ」は17%にとどまり、「引き上げ時期は柔軟に」が56%、5%維持が25%となりました。
原発再稼働についても、共同通信が参院選直後(7月22、23日)に実施した世論調査で58・3%が「反対」しています。
こうした状況のもと、自民党議員の一人は「不安」を口にします。
「安倍首相にはやりたいことがたくさんある。消費税もあるしいろんな課題がある。しかし、まずしっかり足元を固め、一つ一つ支持を得られるような形でやっていかなければ…。いっぺんにやったらつぶれる」
「徹底的に追及して」
その一方で、安倍内閣の暴走に対し正面対決する日本共産党に期待が高まっています。
「ブラック企業を追及してほしい」「東京電力の責任をもっと追及して」「内部留保の活用による雇用の拡大を実現してほしい」「このすばらしい憲法を変えてはならない」「介護保険の保険料が高すぎる。何とかして」「麻生副総理の『ナチス発言』を徹底的に追及し辞任に追い込んでほしい」―。日本共産党本部には選挙後も、多くの要求が寄せられています。ある香川県の支持者は「自民大勝とはいえ、真っ向から対決し筋を通す共産党の勝利は何十倍もの価値がある。何かが変わりそうです」とメールを寄せました。(中祖寅一)