2013年8月20日(火)
きょうの潮流
電気カミソリの刃を買いに出かけたら、店にはなく、注文になるとのこと。店員は本体を買い換えた方が安いといいます。最近、腕時計を直しに出した知人も、新しく購入した方がいいといわれたそうです▼昔から、われわれ日本人はモノや道具を大事に扱ってきました。多少壊れても修理して長く使い続ける。しかし現在はどうでしょう。あくなき消費を求める企業は使い捨てを奨励。大量生産、大量消費の時代に伝統の美徳も薄れています▼東京の世田谷美術館で、モノづくりとデザインの世界をテーマにした展覧会が開催中です。日用品から都市まで。工業デザイナーの栄久庵憲司(えくあんけんじ)さんと彼が率いる創造集団GKが、戦後の復興期から手がけてきた製品を紹介します▼聞きなれない人も多いかもしれませんが、作品は身近です。たとえば、よく見かける卓上のしょうゆびん。赤い注ぎ口に黄色のロゴが、しょうゆの色と調和。半世紀以上も同じ形で愛用されてきました▼オートバイや電車をはじめ、施設や街の外観もデザイン。貫いてきた発想や観点は「モノの民主化」と「モノには心がある」でした。今年84歳になる栄久庵さんは、終戦後に広島で見た、すべてが焼けただれた光景がモノづくりの原点になったといいます▼デザインのありようは、国の行く先や来し方にも通じるという栄久庵さん。あふれるモノや道具が便利な生活や人間の欲望の象徴となり、粗末にされる社会。ほんとうの豊かさとは何なのか。いま問いかけられています。