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2013年8月8日(木)

TPP交渉

「国益」主張せず 市場明け渡す

ここまで屈辱的とは

東大大学院教授 鈴木宣弘さんに聞く

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 環太平洋連携協定(TPP)交渉に日本が正式参加しました。並行して、日米交渉もはじまりました。この時点でTPP問題をどうみるか。東京大学大学院教授の鈴木宣弘さん(農学博士)に聞きました。 聞き手 渡辺健


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 政府は、情報開示が不十分だという批判に対し、“交渉に参加していないから中身がわからない”“参加すれば情報がわかる”といっていました。参加したら、“4年間は交渉の中身が秘密だから情報は出せません”という。

勝手に決めて露骨な譲歩も

 いつまでたっても国民には何も開示しないで、勝手に決めてしまう。TPP交渉とはそういうものだと改めて明らかになりました。

 信じられないことは、「守るべきものを守る」ために交渉に参加するんだといっていたのに、日本のTPP交渉団が何を守りたいか、いっさい表明しなかったことです。

 農林水産品の関税、国民皆保険、食の安全基準など「守るべき国益」について、国会でも自民党でも決議しています。私たちの市民グループは、決議を英訳してアメリカなど交渉参加国に配りました。“日本がそう簡単には譲らないことを覚悟してくれ、それでも参加を認めるのか”と。ほかの参加国は、今回のマレーシア会合で日本の交渉団が、「日本が守るべき国益」を持ち込んでくると思っていた。ところが、日本の交渉団は、いっさい主張しなかった。「各国『肩すかし』 予想反し日本主張せず」(「東京」7月26日付)です。

 逆に、露骨な譲り方を相変わらずしています。その最たるものが、米国の保険会社アフラック(アメリカンファミリー生命保険)の日本市場強奪です。

 日本郵政のかんぽ生命について、米国側は「競争条件を同じにしてくれ」と要求。アフラックが日本市場の7割を占めるがん保険は、かんぽ生命が新商品を当面発売しないと約束させられました。それにとどまらず、「提携強化」で、日本のすべての郵便局でアフラックのがん保険を売る。まさに市場を完全に売り渡したわけです。

 米国の狙いは、郵政マネーとか日本の資金を米国にもっていくことです。それをいとも簡単に日本側から「はいどうぞ」と明け渡した。TPPを象徴しています。米国企業による日本市場の強奪です。

 日本側は、「守るべきもの」をいっさい主張しない。すべてを失う交渉をやる。なんと屈辱的か。わかっていたことですが、ここまで露骨とは、思いもしませんでした。

国民生活より米企業の利益

 米国のTPP戦略は、TPP交渉を利用しながら、日本郵政など個別の問題は、2国間交渉で従わせればいいというものです。日米交渉で、大きなテーマになる食の安全は国民生活に直結する問題です。

 米国は、日本の食の安全基準というのは厳しすぎる、緩めろという。BSE(牛海綿状脳症)対策としての米国産牛肉の輸入規制は、日本のTPP交渉参加の「入場料」として、すでに緩和させられてしまいました。

 遺伝子組み換え(GM)食品の表示をなくすことは、米バイオ化学メーカーのモンサントが世界に広めたいことです。同社は、遺伝子組み換え作物の種の世界シェア(市場占有率)が9割です。

 表示ができなくなったら大変ですよ。何を食べているのかわからない。小麦もコメもGMになって、日本人の食べ物が完全にGMで独占されるようになると、消費者も選ぶことができません。生産者もモンサントの種子を買わないと、生産できない。じゃあ、GM食品が安全か。フランスの実験結果があります。いままでの実験は3カ月でよかったので、ネズミに、がんはみつからなかった。ネズミに2年、一生分食べさせたら、がんだらけになってしまった。

 人間はGM食品を十数年しか食べていない。80年食べたらやっぱり心配だと思う。せめて、表示して選べるようにしてくれといっているのに、それさえダメだという。米国の農業主席交渉官は、モンサントの前ロビイストです。露骨ですよね。

 医療問題も重大です。米国の保険会社や製薬会社にとって、自分たちの利益を拡大するうえで、日本の公的保険制度が邪魔になる。自由診療を拡大し、先端医療保険を拡大するため、混合診療を解禁しろという。薬の値段を安くできるように公的な委員会で決めているのは、自分たちのもうけを阻害しているから、やめろ、薬の特許期間を長くしろという。

 自動車は、すでに日本の交渉参加の「入場料」として、米国の自動車関税の撤廃猶予(25〜30年を要求)など大幅に譲歩させられました。さらに、日本が軽自動車に税制上の優遇をしているのはけしからん、米国の車が売れるように軽自動車の区分をやめろ、米国の最低輸入台数を決めろ―などと迫ってくるのは必至です。

暴走をとめるうねり今こそ

 参院選の結果、安倍政権の経済政策「アベノミクス」が評価され、TPP交渉参加も評価されたなんて思われたら、とんでもないことです。

 「アベノミクス」というのは、円安に誘導し、解雇を自由にし、賃金は抑制する。輸入食品とか生活必需品は高くなり、人々の暮らしは苦しくなる。ほんの一握りの国際展開しているような企業だけが、もうけを拡大する。そのために、なんでもやるというのが、「アベノミクス」です。米国と日本のほんの一握りの企業の利益を貫徹させる。「アベノミクス」の完結編がTPPです。

 自民党に対決する政党として格差社会をなくせ、原発ゼロ、TPP交渉から撤退しろと主張した政党、共産党が唯一躍進しました。

 対立軸として、いまの政権党の暴走を止める力として、共産党がここまで伸びたわけです。共産党もその期待にぜひ応えてほしい。覚悟をもって、暴走を止めてほしい。

 TPPの産業への影響について、私たちが内閣府と同じモデルで計算しても、トータルではマイナスです。もっともっと幅広い人たちが連帯して、国の暴走を食い止めるうねりをつくりだす必要があります。

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