2013年8月6日(火)
安倍首相
集団的自衛権ありきの暴走
必要性 政府高官も疑問
アジアの平和に逆行
安倍政権は、歴代政府が憲法違反としてきた集団的自衛権の行使に向け、内閣法制局長官を容認派にすげかえる方針を固め、行使容認に踏み込むことが確実な有識者懇談会(安保法制懇)の報告書について年内に策定する新「防衛計画の大綱」に反映する意向を示すなど、暴走を始めています。しかし、その口実に説得力はありません。(榎本好孝)
参院選投票日翌日の7月22日、首相は記者会見で、集団的自衛権の行使へ改めて意欲を表明。その必要性を示す具体例として、公海上の米艦防護という問題を持ち出しました。日本近海で米艦がミサイル攻撃を受け、その近傍にミサイル迎撃能力を持った自衛艦がいるのに何もしなければ日米同盟は維持できないというのです。
小野寺五典防衛相も今月4日のNHK番組で同じ例を挙げました。
この問題は、第1次安倍政権時の2007年に首相が設置した安保法制懇(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)の検討テーマの一つでした。
環境変わったが
しかし、政府内では当時から、米艦が単独でミサイル攻撃を受けるという想定は非現実的であり、妥当性に欠けるという批判が上がっていました。
当時、安全保障担当の内閣官房副長官補だった柳沢協二氏は著書で、「公海上で米艦が攻撃された場合の自衛隊の対応については、日本近海であれば、そのような攻撃は通常、日本への攻撃の前触れとして行われ、日本有事と認定できるため、…個別的自衛権によって米艦の護衛が可能」だと安保法制懇の会合で説明したことを明かしています。
同時に、「私は、(首相に)そのような事例は個別的自衛権でも可能で、それ(集団的自衛権の問題)を議論することによって必要な措置がとれなくなる恐れがある、という意見を述べた。それでもやる、という総理の意志は固かった」と回想しています。(『検証 官邸のイラク戦争―元防衛官僚による批判と自省』)
首相自身、安全保障環境は大きく変化したと言っているのに、6年前と同じ、しかも、妥当性を欠いた説明しか持ち出せない―。集団的自衛権行使ありきの暴走です。
第7艦隊と行動
こうした暴走のもと集団的自衛権の行使を可能にすることで日米軍事協力をいっそう拡大・強化する具体的要求も上がっています。
今年、首相が再び立ち上げた安保法制懇の初会合(2月8日)で、委員の一人は、米海軍の「一番の希望」として、米第7艦隊のパトロールに自衛艦隊が参加できるようにすべきだと主張(議事要旨から)。西太平洋からインド洋を責任区域にする米第7艦隊とともに自衛隊が行動し、アジア太平洋全域ににらみを利かすことまで求めています。アジア諸国の警戒が高まるのは必至です。
さらに、7月11日、米海軍制服組トップのグリナート作戦部長はワシントンでの講演で、6月にカリフォルニア州で実施した日米共同の強襲上陸訓練を高く評価。「日本で集団的自衛権が認められれば、海上自衛隊は(米空母や強襲揚陸艦を中心にした)打撃群に加わって共同作戦が可能になる」と強調しています。