2013年8月5日(月)
主張
全柔連の辞任表明
民主的な組織づくりの契機に
不祥事が相次いだ全日本柔道連盟(全柔連)の執行部がようやく辞任を表明しました。先月末に開いた臨時の理事会と臨時評議員会の後で、上村春樹・全柔連会長は「次の体制のめどを立て、8月半ばにも理事会を開いて対応を図りたい」と述べました。遅きに失したとはいえ、新しい執行部には日本の柔道界全体を刷新する覚悟で臨んでもらいたいものです。
組織の責任うやむやに
全日本女子の強化選手15人が、監督から暴力や暴言を受けていたことが発覚してから半年がたちました。その間も、指導者への助成金の不正受給や現職理事のセクハラ問題など、全柔連の不祥事は後を絶ちませんでした。しかし上村会長をはじめとする執行部は居座りつづけ、組織としての責任をうやむやにしてきたのです。
女子選手たちの勇気ある告発はもともと、全柔連に向けて訴え出たものでした。ところが、暴力の実態を把握しながら監督の続投を決定。これに危機感を抱き、任せられないと判断した彼女らが、日本オリンピック委員会に告発文を送ったことで事態はやっと動き始めました。
全柔連は選手たちの切実な訴えに腰を上げず、組織的な対応を怠ってきました。第三者委員会からも「疑いが生じたとすれば、組織を挙げて実情を調査するのは当然のことであろう。暴力のまん延の度合いとそれが他に及ぼす影響、その原因、責任の所在を明らかにするべきであった」と批判されています。
6000万円をこす不正受給の問題でも組織の責任が問われました。受給資格のない指導者が平然と公金を受け取り、飲み食いや交際費にあてる。こうした不正行為が長期にわたって内部でまかり通ってきた全柔連の隠蔽(いんぺい)体質が指弾されました。
しかも、第三者委員会の中間報告にたいする対応も不誠実で、反省や改善どころか、報告に反論する「要望書」を出す始末でした。これでは全柔連の順法精神や統治能力の欠如を外部から厳しく指摘されるのも当然でしょう。
今回の辞任表明の決断も、内閣府から今月末までに責任の所在を明らかにし、適切な措置を講じて体制を再構築するよう勧告されたことによるものでした。結局、それに従わなければ、公益法人を取り消されるという政治的な圧力を許してしまうことになりました。
相撲協会も同様でしたが、スポーツ団体や組織が社会的な問題を起こしながら自浄能力を発揮できない場合には、国の介入を招くことにもなります。それだけにことは深刻です。政府も「公益法人」の資格を錦の御旗にして強要するのではなく、スポーツ界の自主・自立を守り、自治の精神をはぐくむ方向での支援が求められます。
暴力体質一掃してこそ
日本の柔道界には、近代柔道の創始者、嘉納治五郎が説いた「精力善用」「自他共栄」の精神をかかげる一方で、勝利至上主義や暴力体質、人格を無視した服従的な人間関係などが根強くあります。これを機に暴力も不正もない民主的な組織づくりと人間関係を築き選手の人権を尊重する柔道界に生まれ変わらなければなりません。
それは、日本社会の民主主義の問題として、スポーツ界全体で克服すべき課題でもあるでしょう。