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2013年6月14日(金)

ファンド経営者ら研究者を高額賠償提訴

支援者 「学問の自由守れ」

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 投資ファンドの実態を研究した学術論文に対して、「名誉毀損(きそん)だ」として、莫大(ばくだい)な損害賠償を求めて提訴する事件が起きています。学問・研究の自由を脅かす問題として、いま学者・研究者をはじめ、幅広い分野で裁判支援の輪が広がっています。


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(写真)「守る会」発足集会で発言する支援者ら=2012年9月、東京都内

 提訴されているのは、明治大学で会計学を研究する野中郁江教授。提訴しているのは、昭和ホールディングス(HD)と同HDを事実上支配するアジア・パートナーシップ・ファンド(APF)の経営者らです。昨年7月、5500万円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴しました。雑誌『経済』189号(2011年6月号)に掲載された野中氏の論文「不公正ファイナンスと昭和ゴム事件 問われる証券市場規制の機能まひ」と、東京都労働委員会に提出した鑑定意見書の記述が「名誉毀損にあたる」としています。

30億円の流出

 昭和ゴム(現・昭和HD)事件は、APF経営者が昭和HDなどの取締役などに就任したもとで、昭和ゴムの資金約30億円が流出し、経営破たんの可能性が指摘された問題です。証券取引等監視委員会は10年6月、架空増資、偽計取引などの疑いで昭和HDを強制調査しています。

 野中氏は、昭和ゴム労組(全労連・全国一般加盟)の依頼を受けて、昭和HDなどが発表する投資家むけの資料や有価証券報告書などをもとに、約30億円もの金が、短期間に昭和ゴムからAPFにわたった資金の流れや経営実態などを分析・研究し、同論文をまとめました。

 経営者らは、同論文の「昭和ゴム事件の特徴は、ファンドによる企業からの財産収奪が行われている、あるいはその危険性が高いという点にあり、その被害者は一般投資家であるとともに、200名余の労働者、さらには取引先、地域経済である」などの記述を「名誉毀損」としています。

 しかし、論文が公益を図る目的で、指摘された記述が真実、または真実と考えるのに相当すると認定されれば、名誉毀損は成立しません。

 野中氏の論文は、会社側の資料にもとづく事実と、証券取引等監視委員会の強制調査をふまえた野中氏の見解、意見をのべたものです。野中氏は、「経営者らの提訴そのものが不当だ」と指摘します。

 裁判では、経営者側の主張に不備があるとして、裁判所が論点を整理しなければならない事態に陥っています。また、昭和HDによる団交拒否、不当処分、昇格差別など11項目にわたる不当労働行為にかかわって、野中氏が都労委に提出した鑑定意見書は、非公開であるため名誉毀損の対象になるのか、が問題になっています。

 野中氏が語ります。「ファンドにかかわっていま、証券市場の規制がどういう役割を果たせるか、が問題になっています。この分野の研究は、私の従来の研究テーマであるとともに、大学教員としての社会貢献活動でもあります。こうした不当な訴えを許せば、研究も社会貢献活動もできなくなります」

スラップ訴訟

 学者・研究者、労働組合などが、野中氏を支援するとりくみを広げています。

 日本科学者会議は5月26日、「APFファンド経営者による不当提訴を厳しく糾弾し、学問の自由・研究成果発表の自由を守りぬこう」との大会決議を採択。学者や労働組合などが中心になって、「学問研究と表現の自由を守る会」が結成され、裁判支援の運動をすすめています。

 科学者会議の米田貢事務局長(中央大学教授)は、「学問は、自由な知的な活動と研究成果の自由な発表、それに基づく学術的な討論によって発展してきました。自分に不利な内容の研究成果の発表を、高額な損害賠償請求で抑え込もうとする今回の提訴は、典型的なスラップ訴訟です。真理の探究をめざす学問の自由に対する許しがたい挑戦であり、野中氏個人ではなく、学術世界、研究者全体にかけられた不当な攻撃です」と指摘します。

 「守る会」の梶哲宏事務局長(全労連・全国一般東京地本副委員長)は、「近年、ファンドが企業に入りこみ、労働者の生活を脅かす事態が相つぎ、労働相談も増えています。ファンドの経営分析で野中教授に協力してもらい、運動をすすめてきました。不当な提訴に対して、組合としても支えたい」と語ります。

 裁判は、これまで6回の弁論が行われ、今後、重大な局面に入ります。また野中氏は3月、経営者による提訴そのものが違法だとして裁判を提訴(反訴)しています。

 野中氏は、「ファンドの問題点について論文を書いて訴えられれば、研究そのものが萎縮させられます。学問の自由を守るためにも、社会的に包囲する運動をすすめたい」と語ります。

 「守る会」連絡先=電話03(3668)5542(全労連・全国一般東京地本)


 スラップ訴訟 企業などが自らの不法行為を取り上げ取材活動しているジャーナリストや弁護士、公共団体などに対して、名誉毀損(きそん)で巨額の賠償金を請求する裁判。アメリカでは、禁止する州もあります。


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