2013年6月6日(木)
「限定正社員」って何だ?!
解雇しやすく低賃金
政府・規制改革会議の答申
政府の規制改革会議が5日にまとめた答申。「雇用」分野では、「正社員改革」として「限定正社員」の雇用ルールの整備が盛り込まれました。2013年度から検討を開始し、14年度中に具体化をはかります。「限定正社員」とは何か。ルール整備されれば日本の雇用はどうなるのでしょうか。(行沢寛史)
雇用全体の不安定化
「限定正社員」(ジョブ型社員)は、勤務地や業務内容、労働時間(残業)などを限定した雇用契約を使用者と結んで働くものです。雇用期間が無期限なので「正社員」として扱われます。パートや契約社員などのように契約期間が有期でなくなるため、安定して働けるように見えます。
しかし、企業の都合で勤務先の工場や店舗の閉鎖、業務が廃止されれば、かんたんに「首切り」されてしまいます。
厚生労働省の通達では、「限定正社員」の解雇は、一般の正社員と「同列に扱われることにならない」としています。正社員にある解雇制限ルールが、「限定正社員」にはそのまま適用されないというのです。
日本経団連の「経営労働政策委員会報告2013年版」は、「この点をより明確にする法的整備を行う必要がある」と主張。規制改革会議「雇用ワーキンググループ」も、就業規則に解雇自由を盛り込むことで解雇をしやすくすることを検討してきました。
現在、正社員で働く労働者も「限定正社員」にされる恐れが強く、日本の雇用全体の不安定化にもつながります。
人件費大幅削減図る
「限定正社員」は、いわゆる“無限定”正社員に比べて、賃金が安いことが当然とされます。
たとえば、労働契約法が改正されて、非正規雇用労働者が5年を超えて働いたら無期雇用に転換する制度がつくられましたが、労働条件は非正規雇用のときと同じでいいとされています。そして、経団連は、この無期雇用を「限定型」の雇用として、形は正社員でも賃金を低くおさえようとしています。
2007年にユニクロがアルバイトや契約社員を大量に「限定正社員」にして話題になりました。待遇は、時給をそのまま月給制にし、「実力評価」で一時金を出すという内容でした。「正社員」にはなったものの、労働者は労働強化になり、離職があとを絶たないといわれています。
財界のねらいは、いま大企業が抱えている正社員を「限定正社員」にして、コストを大幅に削減することです。
成長はばみ景気悪化
「限定正社員」を増やして経済は本当に成長するのでしょうか。
「限定正社員」による雇用拡大は、低い賃金や劣悪な待遇、不安定な雇用を増やすだけです。
日本では、1997年をピークに1人あたりの賃金が減り、「デフレ不況」の原因となっています。賃金低下の要因となったのが、正社員の月例賃金の低下と、ワーキングプアとよばれる非正規雇用労働者の増加です。非正規雇用は95年の1000万人から、現在1800万人を超え、全雇用労働者の4割に迫ろうとしています。
これは、99年の労働者派遣「原則自由化」や、2004年の製造業解禁をはじめ、歴代自民党政権による「雇用破壊」によってもたらされたものです。その結果、小泉内閣、第1次安倍内閣の下で「好況期」とされた02〜07年も国民所得は減少しました。
「限定正社員」の導入では経済成長を促すどころか、景気低迷にいっそうの拍車をかけるだけです。
働くルール確立こそ
「限定正社員」に対して、“無限定”正社員は、長時間の残業や遠隔地配転、出向などに限定がないようにいわれ、また多くの正社員が、“働くルール”のない過酷な労働条件におかれています。
深刻な正社員の実態を放置、悪化させ、「それが無理なら限定正社員に」というのでは、すべての労働者の賃金・労働条件は悪化するばかりです。いま必要なことは、長時間労働の是正やサービス残業の根絶、均等待遇の実現、最低賃金の引き上げなど、だれもが安心して働き続けられるようにルールを確立することです。