2013年5月26日(日)
主張
農業成長戦略
TPP参加の暴走を正当化
安倍晋三首相が「農林水産業・地域の活力創造本部」を設置しました。農業を成長産業にし、農業・農村の所得を10年間で倍加させるといいます。総選挙での公約を踏みにじり、環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を暴走する安倍首相が、農業関係者の怒りと不信をまえに、農業にも活力が生まれる道があると印象づけようとするものです。
新味ない政策ばかり
15年前に12兆円あった農業産出額は8兆円に、農業所得は5兆円から3兆円に激減しました。自民党型政治のもと、自由化で輸入農産物が増え、政府による米価政策の放棄と大手量販店を中心にした価格競争で生産者への買いたたきが広がり、多くの作物で生産コストを賄えなくなったからです。農業就業者の高齢化、後継者不足、耕作放棄地の増大は、国内生産と農業者の暮らしを顧みない政治が引き起こしたものです。
しかも、TPPに参加して関税の撤廃を受け入れた場合、政府の試算でも農業生産額が3兆円以上、農業の多面的機能が1兆6000億円分も失われます。
安倍首相は、TPP参加でこうした影響があっても、「攻めの農政」で農業所得を倍増させることができるというのです。何をすれば農業が活性化し、農業所得が倍増するというのでしょうか?
あげられているのは、農林水産物の輸出を4500億円から1兆円に増やす、農家や生産組織が加工や流通に乗り出す農業の取り分を増やす(6次産業化)、経営規模が小さいので農地を集積して20〜50ヘクタールの大規模経営が大部分を占めるようにする(構造政策)とともに、農業の多面的機能を生かすための直接支払いを創設するというものです。
どれもこれまで政府が自由化や価格政策の放棄とあわせて強調してきた内容で、新しさはありません。現に生産を担っている農家・農業者の経営を発展させることも、亜寒帯から亜熱帯までの多様な気候条件や中山間地域、過疎地域などさまざまな社会的条件のもとで営まれている日本農業の特徴を生かす具体策もありません。あるのは6次産業化や規模拡大に、農外の営利企業が参入しやすくすることや農地の集約化を半強制的に行う体制づくりです。
農業生産と加工・流通を結びつける6次産業化や担い手の育成などはやらねばならない課題です。しかし、TPP参加で関税が撤廃され、非関税障壁として食品の安全基準や産地表示などが緩和・撤廃されるなら、消費者との信頼で成り立つ6次産業化や国内生産の拡大は進みません。
財界が中心の産業競争力会議などが狙うように、農業への企業参入を構造政策や6次産業化の柱にするのでは、多国籍企業化した大企業などのビジネスチャンスにはなっても、農業者や地域経済のプラスにはならないでしょう。
農政の抜本転換を
安倍首相は、根拠のない「農業所得倍増」などでTPP参加を正当化せず、日本の農業・食料に重大な打撃を与えるTPP参加を断念し、農業関係者と消費者を安心させるべきです。そのうえで、各地の条件にあい、農業者が確信をもって生産に励め、若い人にも魅力ある農業、関連産業をめざして政策を抜本転換すべきです。