2013年5月21日(火)
走る印パ「友好の橋」
直行バス 乗車ルポ
談笑しながら国境越え
パキスタンへの出張で今月、インドの首都ニューデリーとパキスタンの主要都市ラホールを結ぶ直行バスに乗りました。3度の戦争を経験した両国の信頼醸成措置として1999年に運行を開始したこのバスは、市民の交流手段として定着しているように見えました。(ニューデリー=安川崇 写真も)
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朝6時。バスは座席の8割ほどが埋まった状態でデリーを出発しました。車体は日本の観光バスとほぼ同じ。距離520キロ、所要10〜13時間。両国当局が週6日、交代で運行にあたります。
南アジア流
「どちらの国からですか」
休憩で停車したドライブインで、両目以外の全身を真っ黒な布で覆う衣装「ニカブ」を着た女性が記者に声をかけてきました。
彼女はパキスタン南部カラチの大学生(21)。両親と、インド西部の親戚を訪ねた帰りだといいます。バスについて聞くと「飛行機よりずっと安い。冷房も利いている。これは便利」。
両国が領有権を争うカシミール地方のインド側に住む女性(26)は親戚の結婚式のため、同地方のパキスタン側に家族と向かう途中でした。「普通の市民が両国を気軽に行き来できるのはいいことです」
両国には47年の分離独立で離散した家族が多く暮らします。彼らにとってこのバスは「欠かせない交通手段」(乗客)です。
ドライブインでの昼食はビュッフェ形式。テーブルで両国の人々が互いに「私はデリーから」「うちはラホールに戻る」と自己紹介していました。「この揚げ物はおいしい。あなたもどうか」。自分の皿にとってきた食べ物も、隣の人と分け合うのが南アジア流です。
警備は厳重
警備は厳重です。機関銃を持つ警官2人が乗り込み、走行中は警察車両がバスを先導。休憩時も警官隊が周辺を固め、部外者の進入を防ぎます。
一方乗客は国籍に関係なくサービスを受け、談笑しながら国境を越えます。「国の関係は悪化しても、市民は仲良くできる。このバスに乗ればわかる」と、冒頭の大学生の父親(50)は語ります。
窓から外を見ていると時折、バスに笑顔で手を振る人がいます。バスは「両国友好の橋」(切符に書かれた標語)として広く認知されているようでした。
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