2013年5月8日(水)
偽装質屋 貸金拡大・回収の手口
公的融資悪用
各地で被害広がる
各地に被害を広げている新ヤミ金融「偽装質屋」。ほかからは借金ができないほど困窮した高齢者を主なターゲットに、借金依存の生活状態に陥れて、年金から法外な高利を吸い上げる仕組みをつくっています。そこでは、公的融資まで悪用し、被害をさらに大きくする手口が使われています。(竹腰将弘)
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年金で一人暮らしをしているAさん(72)が群馬県高崎市内の「偽装質屋」から金を借りるようになったのは2011年の暮れでした。
質草となる高価な品物もないのに、その店ではほとんど無価値の時計で数万円を簡単に貸してくれ、年金が支給される偶数月の15日に返済する約束をさせられました。
その後もAさんは、しだいに借り入れを増やし、2回目の返済日の12年2月15日にがくぜんとします。2カ月分で30万円に満たない年金の大半が、返済金として自動的に引き落とされ、口座が空になっていたのです。
年金支給日には「質屋」に一括返済、生活のためにまた「質屋」通いという“借金依存”。Aさんがそんな生活状態におちいるまでわずかな期間しかかかりませんでした。
Aさんは1年足らずで25回、この「質屋」から借金を重ねます。利息は、年率換算で平均340%。なかには利率1464%という貸金業の上限金利を73倍も上回る貸し付けもありました。
借金指示
2月の返済で生活が立ち行かなくなったAさんに、「質屋」はこう持ちかけます。「年金を担保に融資してくれる公的機関がある。利用してはどうか」
年金担保融資を行っている独立行政法人福祉医療機構からの借金を指示されたのです。
Aさんは同機構に80万円の融資を申し込み、3月に口座に振り込まれました。同機構の融資は、年金から天引きの形で返済がされるので、支給額が減額されます。「質屋」への返済は引き続きかさみ、7月には再び、Aさんの生活は逼迫(ひっぱく)します。
「質屋」は再び持ちかけました。「いま機構から受けている融資をいったん返済して、もっと多い金額を借り直せばいい。返済資金は肩代わりしてあげる」
Aさんは、「質屋」から借りた金で機構の融資をいったん完済し、あらためて150万円の融資を申し込みました。融資は8月中旬に実行。しかし、Aさんはその日のうちに「質屋」に143万円余の返済をさせられます。150万円というまとまった金が入ったはずなのに、Aさんの手元にはわずか数万円しか残りませんでした。
「質屋」は、公的な年金担保融資に借金をつけかえたうえ、Aさんが通常受け取る年金の範囲をはるかに超える多額の金を巻き上げたのです。
これは、この「質屋」の常とう手段で、同県伊勢崎市でも、女性の客が公的年金担保融資の利用を持ちかけられたことが確認されています。
Aさんの相談にあたった司法書士の西川正さんは「『生かさぬように殺さぬように』というが、偽装質屋は短期間に、客を確実に『殺し』にかける恐ろしいシステムだ」といいます。
損害賠償
Aさんは、家賃を払えなくなり家を失いました。手元には150万円の借金が残っています。どうしてこういうことになったのかよくのみこめません。
Aさんの被害=“盗(と)られた年金”の額は270万円。いま、弁護士の助言を受けながら、「質屋」への損害賠償請求を準備しています。
公的年金担保融資 厚生年金保険、国民年金などの年金を担保に融資することはそれぞれの年金保険法で禁止されています。この例外として厚生労働省所管の独立行政法人「福祉医療機構」が唯一、公的年金の受給権を担保にした融資を行うことが認められています。