2013年5月3日(金)
きょうの潮流
人類が文明を開いたうちのひとつ、古代エジプト。肥沃(ひよく)な地を生み出し、人間の営みをはぐくんできたのは、大河ナイル川でした▼1960年、治水と電力供給を目的にナイル川で大規模なダム建設が始まります。ところが、エジプト文明の遺跡群が水没してしまうことが判明。ユネスコの呼びかけによって各国が援助し、巨額の費用をかけて移築されました▼フランスの文化相だったアンドレ・マルローは当時、ユネスコの会議で「世界文明の第1ページを刻む芸術は、分割できないわれわれの遺産である」と演説。これが、人類共通の宝物を守ろうという、世界遺産の理念につながりました▼日本の象徴ともいえる富士山が、その世界遺産に登録される運びとなり、地元のみならず、喜びにわいています。ユネスコの諮問機関は、富士信仰や浮世絵などの芸術的な伝統もあることから、文化遺産として勧めました▼富士山のもつ自然や文化、愛され親しまれてきた歴史をみれば、日本人には昔から心に根づいてきた宝物。しかし美しく雄大な山も、近年は増えつづける登山者によるごみ問題や環境保全に悩んでいます▼忘れてはならないのが、米軍と自衛隊が訓練をくり返す東富士演習場です。戦車が広大な大地を荒らし、軍用機が大気をふるわす。実弾射撃によって穴があいた山すその無残な姿…。演習場は北富士にもあり、オスプレイの配備も計画されています。登録を機に、まずは世界遺産に最もふさわしくない軍事の場をなくさなければ。