2013年4月5日(金)
石綿肺がん 大阪高裁判決確定
“親父も浮かばれる”
迫られる労災基準見直し
アスベスト吸入による肺がん(石綿肺がん)に関する厚生労働省の労災認定基準の見直しが迫られています。従来の基準を「合理性があるとは認め難い」と断罪した今年2月の大阪高裁判決が確定したためです。 (兵庫県・喜田光洋)
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提訴の遺族 感慨深く
「本当によかった。これで親父(おやじ)の死も今後に役立つ。国は、判決を受け入れて認定基準を見直すのが当然だ」。こう話すのは、芦屋市の英(はなぶさ)克希さん(42)です。
父の規雄さん=当時64歳=は、神戸港で貨物の数量を検査する検数作業に従事し、2006年1月に肺がんで死亡しました。石綿にばく露していたにもかかわらず労災と認められず、妻の麗子さん(69)が09年1月、遺族補償給付などを不支給とした処分の取り消しを求めて提訴しました。
要件満たすも
60年代から80年代にかけて、全国の石綿輸入量の約3割が神戸港に陸揚げされていました。袋が破れて石綿が飛散して雪が降るかのような船倉内で労働者はマスクもつけず作業していたといいます。規雄さんは約20年間、石綿の荷揚げ作業に直接立ち会いました。
03年に転移性でない「原発性肺がん」と診断され、たばこを吸わない規雄さんは石綿が原因と思い、「死んだら解剖して肺にアスベストがあるか調べてほしい」と言い残しました。解剖の結果、乾燥肺1グラムあたり石綿小体(石綿繊維にたんぱく質が付着した物質)が741本検出されました。
06年2月改正の労災認定基準では、原発性肺がんで▽胸膜プラークか石綿小体か石綿繊維があり、かつ石綿ばく露作業に10年以上従事した▽石綿ばく露作業の従事が10年未満でも石綿小体が5千本以上ある―場合は石綿肺がんとして労災認定されるようになりました。
規雄さんは要件を満たしており、麗子さんは労災を申請。ところが労働基準監督署は認めませんでした。
その理由は「10年以上の従事でも石綿小体が5千本以上なくては認められない」と同年2月の基準とは異なるものでした。厚労省はさらに、翌07年3月の通達でこの判断を新基準としました。
救済の展望開く
裁判は、12年3月の神戸地裁判決が「07年基準は救済範囲を狭めるもの」とし、今年2月の高裁判決も「肺に石綿小体が認められれば足り、量的数値は問題ではない」と07年基準を否定。麗子さん側が勝訴し、国は2月末に上告を断念、高裁判決が確定しました。
12年3月改正の認定基準でも、「10年以上従事でも石綿小体5千本以上」の07年基準が引き継がれており、判決確定で基準の見直しが迫られています。
石綿肺がんの発症率は中皮腫の倍とされていますが、基準が厳しく労災認定数は中皮腫より少ないのが現状。判決確定は他の同様の裁判にも影響し、国を包囲して基準を見直させて広く救済する展望を開きました。
麗子さんは「お父さんに『白黒つけてくれ』と託されたので頑張ってきました。肩の荷が下りたかな」と感慨を語っています。