2013年3月30日(土)
陸自隊員死に賠償命令
格闘訓練 安全配慮怠る
札幌地裁判決
陸上自衛隊真駒内駐屯地(札幌市)で、徒手格闘訓練中に島袋英吉1等陸士=当時(20)=が死亡したのは上官らの安全配慮・注意義務違反が原因だとして遺族が起こした国家賠償請求訴訟で札幌地裁(石橋俊一裁判長)は29日、国(自衛隊)に対し賠償金約6454万円の支払いを命じました。判決は徒手格闘訓練の危険性を認める初の司法判断となりました。
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石橋裁判長は判決理由で徒手格闘訓練について「旺盛な闘志をもって敵たる相手を殺傷する、または捕獲するための戦闘手段であり、その訓練には本来的に生命身体に対する一定の危険が内在(する)」と指摘。その上で「訓練に内在する危険から訓練者を保護するため常に安全面に配慮し、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負う」と原告の主張を認める判断を示しました。
原告が主張した訓練目的を超える「有形力の行使」(暴行)については認めませんでした。
死亡した島袋英吉さんは沖縄県出身。入隊して間もない2006年11月21日、所属部隊長(2佐)に命じられ、素手で敵を殺傷することを目的にした徒手格闘訓練を3等陸曹の指導で陸士長と「訓練」。受け身も未修得の「初心者」だった英吉さんは陸士長の「投げ技」で背中から落下して後頭部を強打。翌22日に急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血などで死亡しました。
沖縄から家族4人全員でかけつけ、傍聴した英吉さんの父親、島袋勉さん(52)は「息子の生きた証しを残すために提訴した。自衛隊は隠ぺいをやめてほしい。若い自衛隊員の命を守ってほしい」と訴えました。
原告弁護団の佐藤博文団長は「判決は徒手格闘訓練の危険性を認めた。自衛隊が(海外派兵など)今後どう変貌するのか、いずれにしてもこれに歯止めをかける武器になる画期的判決」とのべました。
解説
「命の雫」すくい上げた
「息子は自衛隊に殺された」。判決後の記者会見で遺族の島袋勉さん(52)がまっさきに口にした言葉です。息子の命を突然奪われ、真相の隠ぺいに動く自衛隊への断ち切りがたい強い不信感です。
父親は息子、島袋英吉さんの短すぎる生涯と自衛隊の振る舞いを克明に記録した本『命の雫』を09年に出版、事故の存在を初めて明るみにしました。訴訟は「命の雫裁判」と名づけられました。
遺族(原告)と弁護団はスポーツが苦手で趣味の音楽を生かして自衛隊ラッパ手となった英吉さんが徒手格闘の訓練要員にされたことへの疑問。まったくの「初心者」にいきなり危険な「投げ技」をかけさせた指導教官を自衛隊の事故調査報告書が事実上、「適任者ではなかった」との記述に注目しました。
弁論では、「(徒手格闘は)おう盛な闘志をもって、初動よく敵の死命を制しなければならない」とする陸自教範を引用し、「殺人的な闘志が要求される」(原告準備書面)徒手格闘訓練の事故は、「スポーツ事故ではない」と弾劾しました。
徒手格闘訓練が自衛隊のイラク派兵を契機に「部隊における格闘訓練は活発化」(陸自11師団事故調査報告書)したこと、事故も急増していることを告発しました。
遺族と弁護団、沖縄と道内外の支援が、こぼれ落ちた「命の雫」をすくい上げました。沖縄の実家に飾ってある英吉さんの書、「命どぅ宝」(命ほど尊いものはない)が輝きます。(山本眞直)