2013年3月28日(木)
きょうの潮流
春休みの大学キャンパスは意外とにぎやか。旅立ちを名残惜しむ卒業生や新年度に胸をふくらます学生が入り交じります。向かう視線はちがえど、ともにはしゃぐ姿がほほえましい▼変わらぬ光景にも痛恨の歴史があります。70年前の学徒出陣。泥沼化していた太平洋戦争は、ついに学生を戦場へと駆り立てました。その数は十数万人といわれ、多くの若者が帰らぬ人となりました▼「往く人のゆき果てし校庭(にわ)に音絶えて木の葉舞うなり黄にかがやきて」。当時、学生の消えた早稲田大学の構内を詠んだ女子学生の歌です。いま同校では「ペンから剣へ―学徒出陣70年―」の企画展を開催中です▼戦争の時代とむきあい、格闘し、志なかばで命を絶たれた学生の軌跡を、卒業生や新入生に知ってもらいたい。この時期に開いた理由です。早大からは4500人をこえる学生が出陣していきました▼今回は5人の足跡を資料でおっています。大志をいだき、学業やスポーツに励む日々。展示物の講義ノートは、余白がないほどびっしりと書きこまれていました。「この学びの殿堂には、万余の若人が青春を謳歌(おうか)しているのだ」(市島保男「学園風景」)▼前途に満ちていた夢や希望をむしり取られ、南方の戦場や特攻で散っていった彼ら。粗末な紙に、家族への感謝の思いをつづった遺書が胸にせまります。国防軍づくりや日本をふたたび戦争する国に変えようという勢力が台頭するいま、学生たちの輝く笑顔をみながら、不戦の誓いを新たにしました。