2013年3月27日(水)
高校教科書検定公表、海外派兵は「復興支援」 戦後補償も「解決済み」
政府見解通り変更
文部科学省は26日、2012年度の教科書検定の結果を公表しました。今回対象となったのは主に高校2年生が来年4月から使う教科書です。自衛隊の問題などで政府の見解どおりの記述に変えさせる検定意見が目立ちました。
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自衛隊の海外派兵については「後方支援」や「復興支援」のためと書かせました。戦後補償問題でも「すでに解決済み」との政府の立場を書き込ませました。
原発事故に関連して「脱原発すべきである」と書いた教科書には「誤解するおそれのある表現」だとして、「脱原発をすべきだとする国民の声がひろく聞かれるようになった」と改めさせました。
一方、日本軍「慰安婦」については日本史で9点中8点、政治・経済で7点中6点の教科書が記載しました。
侵略戦争の中で日本軍が一般市民を含め大量に虐殺した南京大虐殺(南京事件)は、日本史、世界史のすべての教科書が取り上げました。しかし文科省は、「少なくとも10数万人が殺害されました」と記述した日本史教科書に、「犠牲者数には諸説ある」と検定意見をつけ、「約20万人や10数万人、またそれ以下など諸説あります」と書き直させました。
今回の検定には一般教科135点、農業・工業などの専門教科46点、計181点の申請がありました。うち生物と英語表現IIで各1点が不合格、コミュニケーション英語IIの1点が申請取り下げになりました。
指導要領の改定受け
国語・数学ページ数 3割増
26日に検定結果が公表された新高校教科書では、学習指導要領の改定で学習内容が増加したことを受け、ページ数が現行の教科書より平均(専門教科をのぞく)で14・9%増えました。
増加率が高いのは国語で29・6%増。ついで数学が28・1%増、英語が20・7%増となっています。
英語では高2で学ぶ新出単語数が500語から700語に増えたことなどがページ増につながりました。
「軍による強要」合格
沖縄戦の「集団自決」についての高校日本史教科書の記述をめぐっては、2006年度の検定で文部科学省が、「集団自決」は「日本軍の強制」によるとの文言を削り、沖縄県民をはじめ国民から大きな批判をあびました。
26日に公表された12年度の検定では、日本史教科書9点のうち、8点が「集団自決」について記述しました。そのなかには、「日本軍による…強要」「日本軍が…強いた」「日本兵による命令によって」と記述しているものもありました。いずれも検定意見は付かず、そのまま合格しました。
しかし、06年度の検定以前に認められていた「日本軍の強制」や「日本軍の命令」と記述した教科書はありませんでした。
半数が大震災を記載
合格教科書132点(専門教科を除く)のうち、東日本大震災を取り上げたのは63点で、割合は47・7%に上りました。東京電力福島第1原発事故は34点で25・8%でした。地理歴史・公民が中心ですが、英語や理科などでも見られました。
東京書籍は、倫理で「安価にみえても、一度事故が起これば莫大(ばくだい)な被害を長期間およぼしつづける」と原発のリスクを記述。政治・経済でも「原子力発電の『安全神話』を打ちこわし、人間が原子力を完全にはコントロールできないことを世界に向けて明らかにした」としました。
三省堂の英語は、被災地でZARDの「負けないで」をトランペットで演奏する姿が新聞に掲載された少女の話を題材に。チャリティーコンサートに招かれ、演奏する少女の姿に多くの観客が感銘を受けた話をつづりました。
領土問題めぐり修正
地理の教科書では、竹島(島根県)と尖閣諸島(沖縄県)について9点全てが取り上げました。政府見解に従わせる検定意見が9件付きました。
竹島は韓国との間で領土問題が起きているが、尖閣諸島は日本が実効支配し「領土問題は存在しない」というのが政府の立場です。
文科省は竹島と尖閣を同列に扱った記述に「領土問題について誤解するおそれがある」との意見を付け、「韓国とは島根県の竹島をめぐって領土問題がある。中国は沖縄県の尖閣諸島について領有権を主張している」などと修正させました。
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