2013年3月26日(火)
きょうの潮流
私たちの遠い祖先、ホモ・サピエンスが約6万年前、アフリカを出発し地球の各地へ拡散していった長く壮大な旅、「グレートジャーニー」▼乾燥地を、氷の上を、熱帯雨林を歩き、ついに南米の南端へたどり着いたのが1万年前です。これを逆に南米からアフリカへ足かけ10年、主に人力でたどった探検家で写真家の関野吉晴さん監修の、パノラマのような特別展「グレートジャーニー 人類の旅」が国立科学博物館(東京・上野)で開催中です▼関野さんは先々で、持続型社会を続けてきた先住民の懐に飛び込み、いかに彼らが自分を環境に適応させ知恵を絞って最適の衣食住を練り上げたかを探り、紹介しています。実物のカラフルな衣服やその染色術、アシで編んだ本物のつり橋、カピバラや白クマ、ラクダの剥製…▼それらは太古の狩猟生活を想像させ、表情豊かな人びとの写真は「よりよく生きよ」と語りかけているようです▼長い年月をかけた環境への適応は、たとえば極北では皮下脂肪がたまってまぶたは一重で、鼻が低く平らな顔になりました。自然を活用し自然に溶け込みその一部となって生きてきた人類史を振り返り、関野さんは現代文明の行き詰まりや人びとの閉塞(へいそく)感を「脱するヒント」がここにあるのではないかといいます▼今、私たちが直面しているのは自然をとり返しのつかない破壊へと導き、人類との結びつきを断ち切ろうとする原発です。ラテン語で「賢い人」という意味のホモ・サピエンスはこれをどう片付けるか。