2013年3月23日(土)
主張
公的医療とTPP
「名ばかり皆保険」になる危険
安倍晋三内閣が環太平洋連携協定(TPP)の交渉参加を決めたことに農業団体をはじめ多くの国民の反対が広がっています。医療関係者からは日本の公的医療保険制度の崩壊につながることへの強い懸念と不安の声が上がっています。安倍首相は「公的医療保険は交渉対象でない」「国民皆保険制度は断固守る」などと繰り返しますが、その根拠は何も示すことができません。むしろ公的医療保険の根幹を揺るがすTPPの危険な実態が明らかになっています。
根幹崩す内容が次々と
すべての国民がなんらかの公的医療保険に加入する「国民皆保険」は、1962年に自営業者や農家の人たちが加入する市町村単位の国民健康保険導入によって確立され、半世紀以上、国民の命と健康を守る役割を果たしてきました。
「いつでも、どこでも、だれでも必要な医療をうけることができる」という医療の平等の大原則は、戦後日本の長寿社会実現を支えるなど、WHO(世界保健機関)をはじめ世界の医療・保健関係者からも評価されています。
あらゆる商品やサービスの取引が対象になるTPPでは、この「国民皆保険」の根幹を掘り崩す交渉がおこなわれる危険が次々と浮き彫りになっています。
その一つは、公的保険の使える薬の値段が大幅に高騰する問題です。日本では、必要な薬が公的保険で使えるように、政府が価格を決める仕組みをとっています。ところが米国は、自国の製薬会社に利益を保障しない仕組みを「不透明だ」と問題視し、価格決定に製薬企業が参加できる制度などを求め続けてきました。
TPP交渉で、薬価を決めるルールづくりが交渉対象になることを政府も認めています。米国流のやり方がTPPで「共通のルール」として決まれば、いまでも高い日本の薬価はさらに高騰し、保険財政を圧迫する事態を引き起こします。必要な薬が公的保険の適用対象から外されて、患者の全額自費負担になりかねません。「国民皆保険」を崩すものです。
米国などTPP交渉参加国で当たり前となっている「営利企業の病院経営参入」も、大きな焦点として浮上しています。
日本で「営利企業の参入」を厳しく禁止しているのは、医療機関が金もうけ優先に走らず、「安心・安全」の医療を平等に提供する「皆保険」の理念にもとづいているからです。「営利企業の参入」解禁は、“もうけにならない患者”を排除する医療がまかりとおる社会を現実のものとします。
TPPは公的医療保険がなく「お金がなければ、まともな医療を受けられない」という米国の「市場原理主義ルール」が基本です。それへの参加は、「国民皆保険」とは両立しないことは明白です。
“二枚舌”で国民裏切り
安倍政権が「国民皆保険を守る」という一方で、政府の規制改革会議が、所得の違いで受ける医療に格差ができる「混合診療」の全面解禁に道を開く議論をおこなうなど、“二枚舌”で「国民皆保険」を骨抜きにする動きをすすめていることは重大な裏切りです。
公的医療保険を「断固守る」というのなら、TPP交渉参加表明を直ちに撤回し、「国民皆保険」の解体につながるすべての企てを中止することです。