2013年3月14日(木)
きょうの潮流
人の声は管楽器に例えられます。肺からでた息が声帯を振動させ、のどや口、鼻の空間で共鳴。さらに、あごやくちびる、舌などで変化がついて、いろんな声や言葉になります▼それぞれの体内をとおって奏でられる音色は、その人ならではのものでしょう。声の高低や強弱、話す速さや長さによって、わたしたちはさまざまな感情や意思を表現しています。声は人となりを表す、といわれるゆえんです▼それを操り、アニメや洋画の登場人物に命を吹きこむのが声優です。「ルパン三世」の銭形警部や「宇宙戦艦ヤマト」の沖田艦長、クラーク・ゲーブルやチャールトン・ヘストンの吹き替えで知られた納谷悟朗(なやごろう)さんが、83歳で亡くなりました▼声優は人柄さえも映し出します。低音でよくひびく納谷さん独特のだみ声を聞くと、親しんだ役柄がたちまち目にうかびます。本人も思い入れはつよく、体調を崩したあとも銭形警部を演じていました▼配役と一体になって喜怒哀楽を伝え、心ときめく世界へと導いてくれる声優業。しかし、その実態はきびしい。若手の出演料は安くて生計も立たない。ひと握りの売れっ子に仕事が集中し、制作費の削減でベテランにも仕事が回ってこない。労働環境は悪い▼「声優である前に俳優であれ」がモットーだった納谷さん。舞台演出家として、若手育成や環境の改善にも力を注いできました。国政選挙で日本共産党に何度も期待を寄せたのは、文化芸術の発展をめざす姿に共鳴してくれたのかもしれません。