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2013年3月10日(日)

衆院予算委 笠井議員の質問

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 日本共産党の笠井亮衆院議員が8日、衆院予算委員会で行った基本的質疑は次の通りです。


賃上げ・安定雇用拡大に本腰を

笠井 内部留保の1%未満で大企業は月1万円賃上げできる

麻生副総理 賃金に回れば経済が活気づく

写真

(写真)質問する笠井亮議員=8日、衆院予算委員会

 笠井亮議員 デフレ不況の打開には、国民の所得を増やす、賃上げが一番のカギであります。私はこの問題を1カ月前の2月8日の予算委員会で提起しました。これを受けて安倍総理は2月12日、経済3団体の首脳と会談をされて、従業員の報酬引き上げを要請されました。総理、経済界の回答はどうだったのでしょうか。

 安倍晋三首相 笠井委員のご指摘もございましたし、安倍政権の意思もございまして、経済3団体に申し入れを行ったわけですが、経営状況が向上している、収益が上がっている企業から賃上げあるいは一時金について、対応していきたいと回答がございました。

経団連はゼロ回答、肝心の大所はやる気なし

 笠井 個々にではあっても、踏み出し始めたことはいいことだと思います。しかし、大所含めておおかたは一時金の引き上げにとどまっている。米倉経団連会長も、業績がよくなれば一時金や賞与に反映をする、景気回復が本格的になれば給料、雇用の増大につながるといわれて、これは給料の引き上げというのはずっと先と。事実上、賃上げゼロ回答ではないかと思うのですが、こんなことでいいのですか。

 首相 まずは体力があるところから、ぜひやっていただきたい。私と笠井さんが、まったく同じ考えになるというのは珍しいことでありますが(場内から笑い)、私も強くそのように思うわけでございます。すでにローソンとかジェイアイエヌとかセブン&アイホールディングスとかあるいは今日、ニトリもそういう意向を表明しました。次々とそういう会社が出てまいりましたので、体力があるところはそう対応していただきたいと思っております。

 笠井 前回の質問で大企業が260兆円を超える内部留保をため込んでいるもとで、その1%を使えば、8割の大企業が月1万円の賃上げを実施できると提起しました。それに対して麻生副総理は、「いまいわれたようなことができる条件に企業側はあることは確かだ」と評価されました。

 そこで、このパネル(1)をご覧いただきたい。例えば、大企業で国内従業員に月1万円の賃上げをするには連結内部留保をどれだけ活用すればいいか、有価証券報告書で試算してみました。

 トヨタ自動車は内部留保の0・2%、三菱UFJは0・1%、キヤノンは0・2%、武田薬品工業は0・05%、東芝は0・8%で月1万円の賃上げができる。おおかたの目安が分かると思います。

 そこで麻生副総理。長引く不況で、国内需要が冷え切っているなかで、余剰資金を新たな設備投資に振り向けることは期待できません。賃上げによって内需を活発にすることこそ、余剰資金を生かせる道ではないか。労働者にとっても企業にとっても国民全体にとってもこんなにいいことはないと思うんですが、いかがですか。

 麻生太郎副総理 共産党と自民党が一緒になって賃上げをやろうっていうのは、たぶん歴史上始まって以来なんだ(場内から「笑い」)という感じがしながら、この間も答弁したと思います。給与が上がるというのをベア、ベースアップ(基本給引き上げ)でやる場合は、先行きどうなるか分かりませんから、企業も腰が引けているところがあると思いますが、少なくとも今の段階で、一時金で10万とかいったような形で出せることは十分できるということになりつつある。そういった感じがしております。

 内部留保が出てきて賃金に回ると、そこから消費に回っていきますので、GDP(国内総生産)を押し上げていくにはGDPに占める個人消費の比率がきわめて高いものですから、設備投資もものすごく大きいものですが、個人消費が伸びる点を勘案すると、短期的にも一時金という形で内部留保が賃金に回ることは、日本の経済が活気づくためにも重要な要素の一つだと思っております。

図

パネル(1)

経済の好循環の突破口になる

 笠井 一時金だけじゃなくてやはりベア、月々の給与が上がっていくということでないといけないと思うのです。大企業の内部留保は、人件費の削減で目先の利益は増やしたけれども、国民の所得が減って市場が収縮するために、企業経営としても有効な使い道がなくなって企業の内部に余剰資金として急激にたまっている。そのほんの一部を一時金、そして、基本給も含めて賃上げにあてれば、日本経済の好循環の突破口になるのではないか。だからこそいま、本腰でこの問題、要請すべきだと思うのです。

笠井 非正規雇用への置き換えが賃下げ社会の原因。改めよ

安倍首相 非正規労働者の賃上げ呼びかける。正規への門戸は必要

 笠井 もう一つ、まったく光があたっていないのが、労働者の3分の1を占める、非正規労働者です。パネル(2)をご覧いただきたいのですが、非正規労働者の割合と勤労者の平均給与年額、それに資本金10億円以上の大企業の内部留保の10年間の推移を示したものです。非正規労働者は約20ポイント、400万人も増えている。他方、勤労者の平均所得、給与は8ポイント、約32万円も減っている。そして大企業の内部留保は、その間に約260兆円へと10年間で100兆円も増やしているわけです。労働者を不安定な雇用に置き換えて、給与を引き下げながら大企業はもうけをため込んできた。総理、これが、「賃下げ社会」の大きな原因になっている。こういう認識をお持ちでないでしょうか。

 甘利明経済再生担当相 企業のそうした行動は、将来にわたって投資をする見通しがしっかりつかない、つまり内部留保としてためておいて、体力を温存し、確かな投資機会の時に、乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負をするという環境にあることと、それから非正規雇用が増えるということは、正規雇用というのは、言ってみればある種、「ベース労働」で調整には不適格であります。そういう自信のなさが、非正規雇用が増えて正規が伸びていかない。政府としては投資機会をしっかりつくってデフレマインドを払拭(ふっしょく)して、持っているよりも投資したほうがいいんだという環境をつくることが必要だと思います。

厚労省の白書もデフレの要因と分析

 笠井 厚生労働省の「労働経済白書」を見ても、需要不足、デフレが起こっている最大の要因は所得の低下だと、主に「非正規雇用者の増加による」と分析しているわけです。何でこんなことになったのか。政治の問題として、歴代自民党政権の時代に進めてきた労働法制の規制緩和、つまり企業の方向や都合に合わせてどんどん規制緩和することによって、非正規雇用の拡大など働く人の所得を減らし続けてきた。そうした政策の結果ではないか。そこへの反省はないのか。総理いかがですか。

 田村憲久厚生労働相 制度改革は労使が話し合いをして決まってきたものです。欧米はかなり失業率が上がりましたが、日本は非常に景気が悪いときもそれほど失業率が上がらない。そういう意味では、この働き方というものはひとつのバッファ(緩衝材)だったことは確かであります。ただ、そうはいっても非正規の働き方の待遇が決していいわけではございませんので、どう改善していくのか、これは大変大きな厚生労働省の課題でございまして、しっかりと対応してまいりたいと思っています。

 笠井 経済財政諮問会議の民間議員をされていた吉川洋さんの『デフレーション』の中でも、バブル崩壊後の不況と大企業における雇用制度が大きく変わり、名目賃金が下がり始めたことが原因であると指摘されている。ところが、政府自らがデフレを招いたことへの反省がないどころか、総理が、労働法制の規制緩和をもっとすすめると財界に約束されるようでは、非正規がさらに増えて、いつまでたってもこの不況から脱却できないということになる。

 ローソンとかいうこともいわれましたけれども、近所のコンビニで「給料が上がるんですってね」と話したら、「関係ないですよ。上がるのは本社で働いている社員だけ」といわれた、こんな声が寄せられました。20万のうち若手正社員3300人の一時金だけだということです。

 そうしたなかで、「非正規労働者の時給を100円上げよう」という要求がいま全国で高まっております。安倍内閣の賃上げ対策のなかに非正規労働者は対象に入っているのか。いかがでしょうか。

 首相 働き方が多様化しているなかにおいて、さまざまな雇用形態があるべきだと思っているわけですが、「正規に変わりたい」という人たちに対して、門戸が開かれていなければいけないわけでありますし、そういう方々に対してチャンスのある社会をつくっていきたいと考えております。

 笠井 賃上げのなかに非正規労働者も対象に入ってすすめるということですね。

 首相 われわれがよびかけている対象としては、正規、非正規関係なく、賃上げ、収入が増えていくことによって消費が増えていく、商品が売れていくわけですから、設備投資も増えていく、こういういい循環に入っていくという意味においては、笠井委員も指摘されたように、企業側にとってもいい出来事でありますから、そういうよびかけは行っていきたいと思っているところです。

非正規の時給も上げないと

 笠井 賃金増大は大事なことだといわれましたが、産業競争力会議では「正社員を解雇しやすくする」という議論が行われている。これはこれまでの賃下げと不安定雇用を広げてきた方向じゃないかと思うんです。そんな議論は「賃下げ社会」をいっそう加速させることになります。いまこそ、非正規労働者の時給も引き上げて、正社員化の流れをつくって、安心してみんなが働ける政策を実行すべきです。内部留保で働く人の所得を増やし、下請け企業への適正な単価にあてれば、消費が増えて、内需が活発になって、企業活動も活性化して確実に収益が上がる。日本経済が活性化する。デフレ不況脱却というならこういう政策にこそ転換すべきだと強くいいたいと思います。

図

パネル(2)


TPP「聖域」は架空 守れない

笠井 「聖域」がないとどうなるか

首相 農業も地域・環境も失う

 笠井 TPP(環太平洋連携協定)問題です。安倍総理が来週にもTPP交渉への参加表明を行おうとしていることに、JAや医師会をはじめとして全国各地、各分野から怒りの声が上がっています。

 総理は「聖域なき関税撤廃」を前提にする限りTPP交渉参加に反対する、これが自民党の公約だと言われてきました。TPP交渉で「聖域がない」ということになるとどういう事態になる、だから反対だ、こうお考えなんでしょうか。

 首相 守るべきものは守らなければならないというのがわが党の立場でございます。聖域なき関税撤廃を前提条件とするのであれば交渉に参加できない、こういう考え方でありました。(日米)首脳会談を行った結果、それはそういうことではないということを私は認識した、確信したということであります。

 笠井 守るべきものを守らなかったらどういうことに日本がなると、だから反対だとお考えなのですか。

 首相 日米共同声明のなかで、日本には農業分野というセンシティビティ(重要品目)がある、ここはまさに私は「聖域」であろうと思っているわけです。農業は産業という面だけでなくて環境や地域や文化や人々を守る機能を持っている。これが守られなかったら、こういうものを失ってしまうことになると思っております。

 笠井 無制限に自由化をして外国との貿易の壁が全く取り払われたら、安い品物、外国の産業がどんどん入ってくる。農業をはじめとして国内の産業が大打撃を受ける。こういうことだと思うのです。この問題については総理が交渉次第だと、入ったときにもそこで守るべきものを守ると言われるのですが、「聖域」が必ず守られると保証されるのか。

笠井 新規参加の国は不利な条件をのまされる

首相 「ぼやっとしている」と明かさず

 笠井 TPPはすでに9カ国が2010年までに交渉に入ってすすめているわけです。そういう9カ国とあとから参加する国との間で、条件が違うということはないのか。2011年11月にカナダとメキシコが新たにTPP交渉参加を表明して、昨年6月に交渉参加を認められました。その際交渉してきた米国など9カ国から何らかの条件をつけられたことはなかったのでしょうか。

 岸田文雄外相 これまでの情報を勘案しますと、TPP交渉参加国は交渉参加に関心を表明した各国について、包括的かつ高いレベルの自由化にコミットすること、さらに交渉進展を遅らせないこと、こういった考え方を示してきているという情報があります。引き続き情報収集に努めていきたいと考えております。

 笠井 昨日来の議論で、コメントしない、それをいうと今後の情報収集に影響があるという話もされました。影響があるということをいわれるということは、なんらかのものがあるということですか。つかんでいるということでしょうか。

 外相 情報収集につきましては全力を挙げて取り組んでいます。そのなかで、個別の課題について、これを確認したとか、これをやりとりしたとか、こういったことについて触れることは控えさせていただく。こういった趣旨でございます。

「9カ国が合意した場合、従わないといけない」(カナダ・メキシコの念書)

 笠井 カナダとメキシコは先行して交渉してきた9カ国との間で極秘念書によって、極めて不利な条件を承諾した上で昨年6月に交渉参加を認められた。これはすでにアメリカの貿易専門誌など、内外の報道で指摘されてきたことであります。条件はとんでもないものだと思うのです。

 笠井 新規交渉参加にはそういう何らかの条件があったのか、なかったのか。いかがでしょう。

 外相 少なくとも現状、ご指摘のような条件、わが国には提示されていない、これだけは確かでございます。

 笠井 つかんでいるかどうか聞いているんです。わが国にはこうした条件は提示がまったくないといわれましたが、当たり前なんですよ。カナダ、メキシコは参加表明してから提示をされたわけであります。まだ表明していない日本に提示はないんです。参加表明するとなれば、入ったときにはこういう条件ですよと具体的な話がある。しかしそれを聞いたら、今度は抜けられないのがTPPなわけです。情報は参加国で共有するけれども、ニュージーランドがいっていますけど、交渉が締結した後だって4年間は交渉内容は秘密にするわけでしょう。外には明らかにしないけど入ってくるってことをはっきり表明したら具体的な話をしますというのがTPPです。だから日本にないのは当たり前です。

 総理はわが国は参加表明していないので、十分に情報がとれないとおっしゃいました。情報収集が難しいということを言われた。ということは、参加表明して情報がとれたときには、重大な条件だったらもう手遅れじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか。

 首相 参加をしないと、正式に情報を得ることはできませんし、そういう情報の共有がなされないわけでありますが、今の段階においては、最大限の努力をしながら情報を収集しているところです。参加した以上は守るべきものはしっかりと守っていくという決意で強い交渉力を持って交渉していく覚悟です。

 笠井 守るべきものは守るといいながら、さっきみたいな条件がついたらそれができないというのが、問題になっているわけです。総理、昨日の答弁では、「種々の情報や報道もあるけれども、判然としない部分もある」と答弁されました。判然としない、そういう内容があることについて把握をしているということでしょうか。

 首相 事前の交渉というのを日本は米国と行ってきたわけでございますし、まだ続いているわけです。われわれがとっている情報もあれば、輪郭がぼやっとしてるものもありますし、参加をしていないという限界の中ではまだ判然としないものがある。こういうことでございます。

 笠井 「ぼやっとしたものがある」ということで、入ってみたら大変なことだったということになったら、それこそ責任問題になりますよ。「判然としない」「ぼやっとしたものがある」のに、十分なものがないのに参加の判断ができるのでしょうか。

 首相 交渉参加をするかどうかの判断について検討しているわけでございます。交渉参加をしたらすぐ締結ではない。交渉参加となった場合は、国益を守るために交渉力を強化して情報収集力も強化をしながら国益を守るために全力を尽くしていく、そして結果を出していく。このように思っております。

 笠井 違うんですよ。参加してみたら大変な手かせ足かせがあるということが問題になっているからいっているのです。後から入ってやっても、もう合意したとこはダメ。他の9カ国がうんと言わなかったら再協議できない。あるいは将来ある分野について9カ国が合意してやったけれども新しく入ったところがそれは困るよ、拒否権やろうと思っても、それは許さない。交渉を打ち切ることについても、9カ国だけにあって、後から入ったものがそういう権限を持ってないということになったら、いくら頑張ろうと思っても頑張れない。それが「ぼやっとしている」とか「輪郭がよく分からない」とかいうようなことで判断したら大変でしょう。

笠井 政府は不利な参加条件を知っていたのか

外相 情報は得ている 農水相 知らない

 笠井 これまで外務省は内閣官房、財務省、農水省、経産省とともにTPP交渉参加に向けた関係国との協議を進めてきたと思います。その中で新規交渉参加国に求める条件についてすでに具体的につかんでいるものがあるんじゃないですか。

 外相 TPP交渉参加国は、交渉参加に関心を表明した各国につきまして、包括的かつ高いレベルの自由化にコミットすること、そして交渉の進展を遅らせないこと、こうした考え方を示している。こうした情報は得ています。引き続き情報収集に努めたいと思います。

 笠井 それは、いつつかんだのですか。

 外相 昨年来、2国間協議あるいは情報収集のための協議、そしてさまざまな国際会議等での発言等さまざまな情報収集に努めています。その情報収集の結果であります。

 笠井 どこからつかみましたか。

 外相 さまざまな他の国々との協議から得た情報を総合的に勘案しております。

 笠井 当時は民主党政権の時代ですが、外務省はこうした条件をめぐる問題でつかんだことについて、当時の野田首相にすべて報告していたということでよろしいですか。

 外相 当然政府一体となって情報収集に努めていたものではないかと想像いたします。

 笠井 昨年末の政権交代以降、まもなく3カ月になりますが、安倍総理は前政権から、この問題について引き継ぎを受けましたか。

 首相 受けておりません。

 笠井 外務省など関係省庁から報告、説明を受けてきましたか。

 首相 受けてまいりました。

 笠井 いつの段階で受けましたか。

 首相 正式な日時は定かではありませんが、私のほうから、TPPについて事前の交渉の状況について説明をしてもらいたいということを指示して、説明を受けました。

 笠井 日本の交渉参加に関わって重要な問題だということで情報収集し、一定のことをつかんでいたというのだったら、なぜ積極的に明らかにしていわなかったのか。メリット・デメリットという問題のなかにこういう問題点があると書いてないですね、どこにも。

 外相 そういったことにつきましては、引き続きさまざまな機会で明らかにさせていただいています。

 笠井 参加するかどうかということが問題になっているときに、内閣府なり政府なり外務省なりが、いろんな資料を出しました。メリットがある、デメリットがある、入った場合にこういう問題があるといろいろ出したけれども、少なくとも、大臣が一定のものをつかんでいるといったような、参加にあたっての条件に関わることについて資料を出してこなかったのではないかと聞いているんです。

 外相 交渉参加国が関心を示している国に対して、交渉を遅らせないように意思表明しているという点については隠しておいたものではないと思います。

 笠井 参加するかどうかこれだけ議論になって、国会でもなっているときに、国会や国民に対して、参加した場合、こういう問題点があるということについて積極的にいわないといけないのではないか。議論の検討の対象に乗せないといけないじゃないか。そういうことをやってきたのかということです。

 外相 前政権の時代のことですが、(平成)24年3月1日のTPP交渉参加に向けた関係国との協議の結果、今申し上げたようなことについて明らかにしております。

 笠井 それは知っていますよ。私も当時この委員会で質問したときに扱った資料ですから。しかし、国会議員あるいは国民のなかで条件ということで議論があるのだなとか、日本が新たに入ろうとしたときに、そういう条件にかかわっていいのか悪いのか、検討しようとしたときにどこかに書いていますという話ではないでしょう。

 入ったときに、手かせ足かせになるようなことがあるかもしれないといわれてきた。このことについて重大な関心をもってこれでいいのかと正面からやらなかったら大変なことになるんじゃないかと思うんですよ。林農水大臣どうですか。

 林芳正農水相 私のほうでは、そういう情報を事前に知っていたというようなことはありません。

 笠井 それでどうするのですか。

 農水相 外務大臣がお話になったようなことが入っていたということですから、これまでもお示ししてきたとご答弁されたとおりだと思います。

「合意済みはそのまま受け入れ」(昨年3月政府文書)

 笠井 これから調べてみますみたいな話ですが、農業はもちろん国民生活全体にとって入った場合にものが言えない、あるいは決まったことはうんと言わないといけないという重大な影響を及ぼしかねない問題であり、その程度の言い方は許されないと思いますよ。いま言われました、「TPP交渉参加に向けた関係国との協議の結果」、昨年3月1日付の内閣官房、外務省、財務省、農水省、経産省の文書(別掲)があります。そのなかで、新規交渉参加国に求める共通の条件といって三つのことが言われているんです。「包括的で質の高い協定への約束=コミットメント」、「合意済みの部分をそのまま受け入れ、議論を蒸し返さないこと」、「交渉の進展を遅らせないこと」。こうしたことについて昨年3月の段階で、少なくとも政府は把握していた、間違いありませんね。

 外相 この内容につきましてはご指摘のあったとおりです。交渉参加国の方針につきましては、昨年3月に明らかにされています。

 笠井 なぜこういう重大関心事を積極的にいってこなかったんですか。

 外相 交渉参加国の関心、交渉を遅らせないという姿勢につきましては、たびたび発言をさせていただいております。現状においては、具体的に結論が出た項目、中小企業にかかわるテーマ一つだけだと認識しております。最大限国益を追求するために努力をしていく、これは当然のことだと思っております。

 笠井 当時、民主党政権だった問題もあると思います。だけど3カ月たっているわけですよ。総理自身がこういう問題を含めて必要な情報は聞いてきたっていっているわけでしょう。それを、日本が参加したときに大変なことになるかもしれない問題について、こういう問題がありますよとちゃんといってこなかった。責任重大じゃないですか。

 外相 (文書では)この「議論を蒸し返さないこと」について、「以下の発言があった」「交渉参加の条件として9カ国で合意したものではない」、こうした点も指摘しております。わが国として現状を把握し、認識しているということです。

 笠井 「合意済みの部分をそのまま受け入れ、議論を蒸し返さないこと」、これが参加条件のなかにあげられている。それは9カ国で合意したものじゃない、動いているものだみたいなことをいいましたが、二つ問題がある。

 一つは、TPPというのは新たに参加する場合、それまで参加している国すべてから“参加していいです”ということを受けなければいけないわけです。そのときに、9カ国でこの条件を合意したものでないとしても、そういうことを主張したということで、はっきりこのことが大事だといっている国があるわけですよ。たとえば、そのあとに、「交渉参加国がこれまで積み上げてきた交渉の成果から新規参加国もスタートする必要があるという意味である」といっているところもある。つまり、9カ国のうち1カ国でもこの条件をクリアしなかったら、日本が入る、あるいはカナダ、メキシコが入ることはオーケーしませんよ、といったら入れないんですよ。新規参加の条件というのはそういう問題です。9カ国で合意したものがすべてかどうかという問題じゃない。

 もう一つの問題は、これは3月の時点です。メキシコ、カナダが実際に表明してから参加が認められたのは去年の6月ですから、文書の3カ月あとです。3月から6月までのあいだにこの条件、たとえば、「合意済みの部分をそのまま受け入れ、議論を蒸し返さないこと」については、交渉参加の条件として9カ国全部で合意したのかどうかについても確認したのですか。そういう情報はあるのですか。

 外相 先ほどの文書でいきますと、「議論を蒸し返すことは避けたいが、重大な判断を要する事項はこれまで合意されていない」等々、こうした情報も含まれていること(笠井「だからそのことをつかんだのかと聞いているんです」)、これをご指摘したいと存じます。

 少なくともわが国として、日米合意等において確認したことと相反する情報は得てはおりません。

 笠井 具体的には明らかにできないわけです。3月以降どうなったかということについても。そういう条件を書いたレター、念書がある。そういう存在については確認しているんじゃないんですか。

 外相 少なくとも、交渉参加に条件となるような情報についてはわれわれは認識はしておりません。

笠井 参加したとたん撤廃を約束させられる

 笠井 だから表明してなかったら教えてもらえない話なんです。政府は、そもそも交渉に参加しないと具体的な交渉内容と到達点がわからない、だから情報収集に努めていると散々いってきました。今度は新たに参加したとたんに、「包括的で質の高い協定への約束」、つまり関税・非関税措置の撤廃の達成を約束させられ、「合意済みの部分をそのまま受け入れ、議論を蒸し返さないこと」とか、「交渉の進展を遅らせないこと」とか、そんな誓約をさせられたら、「聖域」どころか「架空の聖域」になってしまいます。

 総理自身も「判然としない部分がある」「ぼやっとした部分がある」といわれましたが、私たち国会議員も国民もまったく判然としない、ぼやっとした部分があるわけです。そんな状況で交渉に参加すると表明したら大変なことになる。できるはずがないと思うんですが、いかがですか。

 首相 われわれがいま判断するのは、交渉に参加するかどうかを判断しなければならないわけでして、交渉に参加するかどうかということについての情報をいま収集しているところでございます。

 もし参加をする判断をすれば参加国になりますから、情報を共有できるわけです。そして、まだこれからも交渉はたくさん残っているわけですから、そのなかにおいて守るべきものはしっかりと守って、得るべきものはしっかり得ていきたい。このような姿勢で交渉をしていく。

 しかし今の段階ではまだ参加するかどうかということについては党内の議論、あるいは米国側の状況もありますから、そういったものを総合的に判断してしかるべきときに、国民のみなさまにどうするかということをお示ししたいと、このように思っております。

 笠井 参加したら大変になるということについての情報収集が不十分で、入ってみたら大変なことになるという条件があって、そのことを教えてもらったら抜けられないという話になるんですから、大変なことになります。

国民と国会に知らせず、結論出すやり方は許されない

 笠井 総選挙直前の昨年11月15日、野党時代の安倍総理は、会見でTPPについて、「今に至るまで情報公開はほとんどされていない」、「国民的な議論を深めていく努力も野田さん(首相)自体がしていないじゃないですか」と批判しています。そして、「ご本人や政党が十分に議論を深めているか、理解を深めているか怪しい時に、いきなり外交の場に持ち込む。外交を選挙のためにもてあそぶ」とまでいわれました。その批判は、まさに総理ご自身にそのままはね返ってきていると思うのです。国民や国会には都合の悪い情報は出さず、そして、あいまいな輪郭もわからない、ぼやっとしているというような状況のなかで、アメリカとは協議しながら、国のあり方の根本、国益にかかわる農業、食の安全にかかわる重大問題で拙速に結論を出そうとする。絶対に許せないと思います。

 委員長、TPP交渉の参加の是非に関する当委員会での集中審議および参考人質疑の開催を理事会で協議していただきたいと思います。

 山本有二委員長 後日、理事会で協議いたします。

 笠井 終わります。

図

TPP新規交渉参加国に求める共通の条件を記載した日本政府の報告書=2012年3月1日、「TPP交渉参加に向けた関係国との協議の結果」(内閣官房、外務省、財務省、農水省、経産省)


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