2013年2月27日(水)
イタリア 中道左派連合が辛勝
上院過半数なし 再選挙も
【パリ=浅田信幸】24、25の両日投票が実施されたイタリア総選挙は26日未明(日本時間昼)までにほぼ開票を終え、下院(定数630)では民主党を中心とする中道左派連合が勝利し、340議席を確保しました。しかし上院ではベルルスコーニ元首相が率いる中道右派連合と激しく競り合い、モンティ前首相派を足しても過半数に達することができませんでした。躍進した反体制派「五つ星運動」はどの党とも組まないとしており、安定した多数を両院に持つ連立政権の誕生は不可能となり、早くも再選挙の可能性がとりざたされる事態となっています。
内務省が26日未明に発表した各勢力の議席数は別表の通り(一部州の議席配分が未定)。
イタリアでは上下両院がほぼ同等の権限を持ち、両院が同一条文を採択しないと法律は成立しません。このため政権維持のためには、両院で過半数を確保することが絶対的な条件となります。
下院で過半数を制した中道左派連合・民主党のベルサニ党首は、「選挙がわれわれに与えた責任をイタリアの利益にかなうよう全うする」と声明で述べ、政権を率いることに意欲を見せています。個別課題ごとに多数派の合意を追求するつもりです。
一方、国政選挙に初めて挑戦した「五つ星運動」は25・55%の得票率をあげ、民主党の25・41%を上回り、いきなり得票率第一党に躍進。元コメディアンで運動を率いるベッペ・グリッロ氏は「正直が流行になるだろう」とコメントするとともに「ばかはやらない。選挙中の公約を実行する」と語りました。
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イタリアの選挙制度 上下両院とも比例代表制が基本で定数は下院630、上院315。下院では最多得票の政党あるいは選挙連合に過半数の340議席が与えられ、残る議席が他の党に比例配分されます。議席獲得には政党では4%以上、選挙連合では10%以上の得票が必要。上院は全20の州が単位の選挙区で州ごとに最多得票の政党あるいは選挙連合に55%の議席が与えられます。議席獲得には8%以上の得票が必要です。
解説
緊縮路線に「拒否」
事前予測で優位に立っているとされた民主党と中道左派連合が、モンティ前首相の連合とあわせても上院で過半数議席を確保できなかった事実は、何よりもモンティ政権が進めてきた緊縮政策への国民の反発の強さを示しています。
モンティ氏の緊縮・構造改革路線は経済を不況に陥らせ、失業増をもたらしました。それは欧州連合(EU)やドイツなどが財政規律重視の立場から強く求めてきた政策ですが、民主党も基本的にこれを継承すると公約。選挙後にはモンティ氏の連合と連立政権を組むことも想定していました。
そのもくろみの実現が危うくなったことは、昨年のギリシャの総選挙結果に続いて、EUやドイツの主導する成長無視・失業増放置の緊縮路線が改めて有権者の側から拒否されたことを意味します。
選挙結果のもう一つの特徴である反体制派「五つ星運動」の大躍進は、イタリア国内政治において中道左派か中道右派かという旧来の2極体制に対する有権者の痛烈な批判と不満を、そして変化への期待を示しています。
「五つ星」という名前は、活動家たちが最も関心を寄せる「水、輸送、開発、インターネット、環境」の五つの課題を表したものだといいます。候補者の平均年齢は32歳。選挙選では既成政党の汚職体質を批判し、ユーロ圏からの脱退も主張してきました。
運動を率いるグリッロ氏は政治を市民の手に取り戻すのだと述べる一方、「エネルギーをより少なく、物質をより少なく、労働をより少なく―これが政策だ」と強調。例えば欧州における1人あたりの電力消費量を3分の1に削減し、週40時間労働を20時間に短縮するのだといいます。
ユートピア的な要素も抱えて若者をひきつけ、無関心に向かうのではなく政治参加を通じて現状変革をめざす運動という側面をみることもでき、今後イタリアの政治にどのような変化をもたらすか、注目されます。
(浅田信幸)