2013年2月27日(水)
TPP 安倍首相このごまかし
“聖域なし”確認しながら“聖域あり”?
東京大学大学院教授 鈴木 宣弘さんに聞く
安倍晋三首相は、オバマ米大統領との会談を受け、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加に大きく踏み出そうとしています。この事態をどうみるか。東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘(のぶひろ)教授に聞きました。(聞き手 渡辺 健)
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交渉参加反対の声 総結集を
安倍首相は、TPP交渉について「(日米首脳会談で)聖域なき関税撤廃が前提ではないことが明確になった」などとして「なるべく早い段階で決断したい」と表明しています。
「関税も非関税も撤廃」明記
“聖域なき関税撤廃が前提でない”というのは、まったくのごまかしです。日米首脳会談後に発表されたTPPに関する共同声明をみると、日本がTPP交渉に参加する場合には「全ての物品が交渉の対象とされる」としています。また、日本は、TPP交渉参加国首脳が表明した「TPPの輪郭」で示された「包括的で高い水準の協定」を達成していくことになるとなっています。2011年11月12日に発表された「TPPの輪郭」は、「関税ならびに物品・サービスの貿易および投資にたいするその他の障壁を撤廃する」と明記しています。
TPP交渉とは、関税も非関税障壁も全て撤廃するものだと、日米首脳は改めて確認したわけです。「聖域」がないことを確認しておきながら、「聖域」があるかのようにいうのは、ごまかしそのものです。
何をもって「聖域」というかという議論もあります。これまでの日本の自由貿易協定のなかで例外にしてきた重要品目、コメ、酪農品、畜産、畑作、砂糖などが「聖域」と理解されます。仮にコメだけが例外になるという話があったとしても、「聖域」を守ったことにはなりません。関税分類上、重要品目は840もあります。
米国も例外を認められず
いままでにない例外のない協定をやる。それがTPPの出発点です。関税について合意されているのは、例外なしにすべて撤廃する。重要品目についてはそれぞれの国で、ゼロにするまで7年から10年ぐらい猶予期間があるにすぎません。アメリカはごり押しで、乳製品と砂糖について、オーストラリア、ニュージーランドにたいして例外扱いさせようとしています。両国は反発し、そんな例外を認めるのであればTPPに署名しないといっています。アメリカでさえ、例外が認められないところまで、交渉は進んでいます。
しかも、日本が参加するための条件として、アメリカは現交渉参加国が決める協定に、日本がどの段階で入ってこようが、従うだけで交渉の余地も逃げる余地もないとはっきりいっています。最近、参加が承認されたカナダ、メキシコは念書を交わしましたが、これまでに決まった内容について文句をいわない、これから決まる条文についても基本的に口をはさまないという屈辱的な念書です。日本だけが交渉で例外をつくれるはずがありません。
許されぬ国民への裏切り
総選挙での自民党の公約は6項目ありました。「聖域」問題はもちろんほかの公約も守られる保証は何もありません。例えば「自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない」と公約しています。ところが、アメリカは日本の交渉参加の条件、“前払い”“頭金”として、アメリカの自動車をもっと輸入するようにしろと迫っています。保険も残っていると“頭金”を求めています。米国産牛肉の輸入については、すでに規制を緩めてしまいました。「国民皆保険制度を守る」「国の主権を損なうようなISD(投資家対国家紛争)条項は合意しない」という公約も守られる保証はありません。
総選挙で自民党の多くは「TPP交渉参加反対」を公約して当選しました。その舌の根が乾かないうちに、国民を裏切ることは許されません。
農業については、ゼロ関税にしてしまえば、ばく大な金銭補償がなければ、いまの生産水準を維持することなどできません。1兆円規模の補償という話もあるようですが、毎年4兆円ぐらいかかるのですから、まったく足りない。失うものが大きすぎ、“条件闘争”などは成り立ちません。参加反対しかありません。
互恵的な貿易ルールこそ
政府や財界は「アジアの成長を取り込む」といっています。しかし、中国、インド、インドネシア、韓国も参加しないといっています。アジアのいい貿易ルールをつくるとか、「成長戦略」というのであれば、強いものだけが勝つTPPのような暴力的な協定であってはなりません。日本が東南アジア諸国連合(ASEAN)と協力し、日中韓もいっしょになってアジアに適した柔軟で互恵的なルールをつくることが大切です。そこにアメリカも参加したいというのであれば、乗せてあげればいい。
日本がTPPに参加すれば食料自給率が13%に下がるなど国民の命がかかっています。医療も崩壊しかねません。仕事も奪われます。地域、各界各層に広がったTPP交渉参加反対の声をいまこそ総結集する時です。