2013年1月31日(木)
規制委の原発新基準づくり
疑問は置き去り 再稼働へ“暴走”
東京電力福島第1原発で起きたような炉心溶融(メルトダウン)など過酷事故や地震・津波に対する原発の新しい基準づくりが原子力規制委員会で行われています。近くそれぞれの骨子案に対する意見を公募した上で7月までに策定することになっています。しかし、新基準づくりは、参加した専門家から上がった疑問さえ置き去りにして、あわただしく進められており、再稼働に向けた道筋をつけるための“暴走”が際立っています。
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期限最優先の議論
航空機テロや巨大地震などによる原発の過酷事故への対策を義務づける新基準を検討している「発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム」の会合が25日に開かれました。
会合はあと1回を残す最終段階。出席した専門家が「コンセンサス(合意)が取れているか、わからない所がいっぱいある」と疑問を投げかけました。座長で規制委の更田(ふけた)豊志委員は「多くの課題を短期間で決める以上、規制委員会にお任せいただく。新基準に対して、加わった先生が全て了承して責任を負うと申し上げるつもりはない」と答えました。
基準づくりの期限は、自民、公明、民主各党が賛成した原子力規制委員会設置法で、同委員会発足後10カ月と定められたもの。しかし、期日に間に合わせることが最優先で、議論を尽くすことなどどうでもいいと言わんばかりです。
内容すりあわせ?
一方、電力会社からの意見聴取にはたっぷり時間をかけています。2回で7時間。
聴取と言っても、電力会社側が、持ち運び可能なポンプなどの台数など骨子案の内容を逐一、事務局の規制庁に質問、確認するものでした。更田委員が「こういうケースはオーケーという図を用意したい」と答え、規制庁の回答に、電力会社が「考え方がよくわかりました」と納得する場面も。
しかも、電力会社側は「工事が大規模になる」などと、基準内容を“値切る”要求を次つぎ持ち出し、再稼働を早くしたいとの意向をあからさまにしました。
新基準にもとづく審査は半年も先。なのに、規制する側と規制される側が会して、考え方の解釈などをすり合わせているとしか見えません。再稼働を急ぐ電力会社には至れり尽くせりの対応が目立ちます。
大飯再稼働の再現
つくった基準も時間のかかる対策は再稼働の後でもいいという対応が取られる可能性があります。田中俊一委員長は会見で「少し時間的余裕をもって対策をとってもらう議論がある」と述べています。更田委員も当初から「猶予期間を設けるのも選択肢」と発言しています。
昨年、関西電力大飯原発を再稼働させた際、政府が自ら決めた暫定基準に対して、免震事務棟や防波堤建設などは計画さえ出せばよいとしました。安全よりも再稼働という、やり方が繰り返されかねません。
突然加わる「露頭」
一方、「地震・津波に関わる新安全基準に関する検討チーム」の第8回会合が29日に開かれました。新基準の骨子案をとりまとめる最後の会合でした。
重要施設について「将来も活動する可能性のある断層等の露頭が無いことを確認した地盤に設置すること」と、前回の案にはなかった「露頭」の文字が突然加わりました。露頭とは、断層などが地表に表れたもので、活断層が真下にあっても、露頭が見られない場合があります。
「(露頭が真下になければ)活断層が真下にあってもいいのですね」と聞いた専門家に、座長で規制委の島崎邦彦委員長代理は「大丈夫です」と答えました。
突然の「露頭…」の書き込み。この日、欠席した2人の専門家のうち、防災科学技術研究所の谷和夫研究員が、重要な建物・構造物は「活断層が露頭する地盤に設置してはならない」との修正文を規制庁に送っていました。同氏は電力会社関連の研究所出身です。
事故原因究明が先
政府や国会事故調の報告書が共通して指摘しているように、東電福島第1原発事故の原因究明が終わっていません。国会事故調で指摘された、地震による損傷の可能性の問題も議論されていません。
国民の安全を最優先に考えるなら、性急な新基準づくりよりも、事故の原因究明に全力を挙げるべきです。
福島事故への反省なし
伊東達也さん
原発問題住民運動全国連絡センター筆頭代表委員福島県いわき市在住
福島事故が収束もしていない、原因解明も終わっていないこの時期になぜ新基準のとりまとめを急ぐのか。
それは原発再稼働と新増設を推進する政治への迎合がある。安倍自公政権が推進を公言しているだけに危険な動きだ。さらにその背後には、一日も早く原発の再稼働と新増設を進めたい電力会社・財界と電力会社の労働組合でつくる“電力連合”の求めがある。これらすべてに共通していることは、利益最優先の行動であろう。このままでは福島事故以前に回帰することになる。
被災地福島では事故発生から3年目を迎えようとしている今、避難した人々の将来には希望も展望も見えない。そして多くの県民は、いまだに自然放射線量よりきわめて高い放射線量の中で生活するという緩慢な苦しみと不安のなかに置かれている。
こうした事態を生み出したことに反省もなしに、再稼働を前提として新基準骨子案作成を急ぐことは到底許されるものではない。
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