2013年1月31日(木)
柔道女子代表監督暴行問題
日本のスポーツ界への告発
異常な事態が発覚しました。
柔道女子の園田隆二代表監督とコーチによって、選手への暴力やパワーハラスメントが行われ、日本代表を含む15人が告発していることが明らかになりました。
全日本柔道連盟(全柔連)は昨年9月、暴力行為があるとの通報を受け、その後に事実確認をし、11月に同監督は選手に謝罪。しかし、選手の気持ちは収まらず、12月に日本オリンピック委員会(JOC)に連名で告発しました。選手たちは、体罰や暴力を決して許さないとの意思を改めて示しました。
あ然とするのは、その実態です。園田監督は、練習や試合で選手を殴る、けるなどしたほか、「死ね」などの暴言を発し、棒で小突くこともしていました。しかし、JOCの会見では、「選手のプライバシーがあるので」と、すべての内容は明かされませんでした。
残念ながら柔道界の指導者による体罰や暴力は、日常茶飯事といっていい状況です。
ある女子のメダリストはこう話していたことがあります。子ども時代からの厳しい練習と体罰で、「柔道をやめたいと思ったのは、1度や2度ではなかった」と。
北京五輪金メダリストの石井慧選手が、ある大会後、当時の全日本監督から平手で殴られる場面が、テレビで流されたこともありました。
2009年までの27年間で110人もの子どもが命を落としている、異常に多い柔道事故のうち、しごきや体罰、暴力と結びついたものも少なくないとの報告があります。
スポーツ指導は本来、選手の自発性と自覚を基礎に、その能力の開花を目指すものです。
しかし今回、明らかになったのは、選手の人格を踏みにじり、人間性を育むスポーツの指導とは相いれない姿です。指導者失格といってもいい。
全柔連はこの期に及んでも、2番目に低い戒告処分を変えていません。この問題にたいする認識の甘さが浮き彫りになっています。
ロンドン五輪後、「日本で柔道をしたくない」と話す女子選手がいると聞きました。
「代表選考の実権を握っている人たちに逆らうと『五輪にいけなくなる』…とみんな泣き寝入りしていた」(スポーツ報知)と指摘する選手もいます。そして15人は、これからの選手のためにと立ち上がった、とも。
監督、コーチが、暴力による未熟な指導で、選手の体も心も傷つける。これは、いま全国の学校の部活動で相次ぎ発覚している体罰問題と根はいっしょです。その意味で今回の事態は、柔道界のみならず、日本のスポーツ界に突きつけた“勇気ある告発”といっても過言ではありません。 (和泉民郎)
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混乱招く甘い処分
静岡文化芸術大学准教授バルセロナ五輪柔道銀メダリスト
溝口紀子さん
園田監督への処分は甘いと感じます。
全柔連は戒告処分という形で続投させました。いわばイエローカード(警告)です。でも、選手たちはレッドカード(退場)を求めて、JOCに告発したはずです。
監督との信頼関係がないなかで園田監督を続投させても、現場は混乱するだけです。これでは全柔連自身が選手からの信頼を失ってしまいます。
私がフランス代表のコーチをつとめていた2004年のアテネ五輪で、韓国の監督が公衆の面前で選手を殴りました。その監督は解任されました。
これが世界の常識です。フランスでは、指導者が暴力をふるえば刑事事件になり、指導者の資格を失います。人権意識を欠いた暴力監督は、辞任するのがあたり前です。
日本の柔道界には、体罰を容認する文化が根強く残っています。園田監督は私とほぼ同世代。厳しい大学柔道部のなかで鉄拳をふるわれながら、選手時代を過ごしました。
もともと、日本では指導者に「はい!」と返事することが美徳とされていますが、フランスでは「ノン!(いいえ)」と言える土壌があります。選手とコーチによる双方向で対等な人間関係が、確立されているのです。
柔道に限らず、日本のスポーツ界では長らく体罰が容認されてきました。スポーツの民主化が遅れている現状を改めるために、彼女たちの勇気と決意をむだにしてはいけません。