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2013年1月11日(金)

体罰はスポーツの否定

スポーツ部長 和泉 民郎

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 「30〜40回たたかれた」「口から血を流して帰宅した」…。バスケットボール部顧問の体罰を苦に、17歳の男子高校生が、みずから命を絶ったといわれる今回の問題。大阪市立桜宮高校での体罰の実態が明らかになるにつれ、そのひどさに胸が締めつけられます。

 体罰や暴力的な指導は、依然として日本の部活動やスポーツ界が抱える深刻な問題です。

“氷山の一角”

 文部科学省によると、体罰を理由に処分を受けた教職員はここ10年ほど年間400人前後で推移しています。2011年は404人で、うち3割ほどの110人が部活動に関するものでした。しかし、これは氷山の一角にすぎません。

 取材でもこんな場面を目にしたことがありました。高校柔道の全国大会で、ある強豪校の顧問が、試合に敗れた後、選手を革靴でけりあげ、会場のすみにチームを集めました。すると、ある選手を集中的に殴り始め、その生徒はひざからがっくりと崩れ落ちました。それでも、体罰は続きました。

 今回のバスケットボール部は5年間で3回、全国大会に出場する強豪校でした。成績を上げるために、体罰を加えて生徒を駆り立て、成績を上げようとしたのではないか。こうした暴力、体罰に頼った指導に共通した心理状態がここにあります。

 しかし、体罰や暴力がいかに子どもたちの人権や人格を否定し、心身を抑圧し、傷つけることになるのか。今回の男子生徒は、みずから部のキャプテンに名乗りを上げる、前向きでバスケットに一生懸命な若者でした。その心を体罰が押しつぶしたのです。

 本来、部活やスポーツに、暴力や体罰は、相いれません。

 スポーツはそれを通じて人格や人間性の発展を促すものです。そもそもスポーツは、その野蛮さ、暴力的なあり方をルールによって排除し、より安全で人間的な質を持った文化として成立したものです。体罰は、スポーツの根本の否定でもあるのです。

優れた実践も

 現在、体罰によらず、選手の自主性を尊重しつつ、成長し、強くなっている部活動の実践が多く生まれています。さらに体罰がスポーツのあり方に反するとの声は近年、そのトップを極めた人からも上がっています。

 プロ野球元巨人の桑田真澄投手は、「小学生のときから、グラウンドに行って殴られない日はありませんでした。…『この野球界を変えたい。なんとかしたい』と高校生のころからずっと考えていた」とその著書『野球を学問する』のなかで明かしています。そして、3年前、早大大学院で野球の根性主義、体罰や暴力、いじめ問題の根源の思想と、新しいあり方を研究論文としてまとめています。

 体罰や暴力をこのスポーツ界の中から、いかになくしていくのか。一人の若者の死を決して無駄にしてはなりません。


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