2012年10月29日(月)
主張
介護の生活援助短縮
“使わせない”路線を転換せよ
介護保険制度の4月からの報酬改定が、自宅で訪問介護を利用しているお年寄りたちに深刻な影響を与えています。掃除、洗濯、調理などをホームヘルパーが行う生活援助の時間が短縮されたためです。「調理時間がなくなり食事が弁当になった」「掃除のやり残しがある」などの事態も起きています。住み慣れた自宅で高齢者が安心して暮らすことを妨げていることは許されません。生活援助の時間短縮は撤回すべきです。
自立と安心を奪う
生活援助は、身体介護と並ぶ介護訪問の大きな柱です。高齢者が、身体が不自由になり掃除や洗濯ができなくなると不衛生な環境になります。バランスいい食事がとれないと健康が損なわれます。そうならないようホームヘルパーが支えることで、その人らしい暮らしを取り戻すのが生活援助です。
単なる“お世話”ではなく、高齢者が人間としても尊厳を保ち自立できるようにする高い専門性が必要とされます。外出できない高齢者がヘルパーの援助や会話で意欲をもつこともできます。ヘルパーが高齢者のちょっとした変化に気付くことで、認知症の早期発見・治療につなげて重症化を防ぐこともできます。在宅高齢者の介護度の進行を防ぎ、自立と安心を支える要といえます。
時間短縮は、生活援助の重要な役割を奪っています。「60分程度」「90分程度」が「20〜45分程度」「60〜70分程度」を基本に短縮されたため利用者と会話すらできない状況が全国で相次いでいることが全労連などの調査で分かりました。ヘルパーの処遇も悪化しています。時間内に仕事が終わらず“サービス残業”が増加しています。ヘルパーの賃下げ、介護事業所の減収という事態も起きています。担い手を疲弊させ介護基盤を掘り崩していることは重大です。
生活援助の時間短縮は、野田佳彦政権の「消費税増税と社会保障の一体改悪」路線にもとづく介護費の抑制・削減策の具体化の一つとして実行されました。「要支援」や「要介護1」など「軽度者」の多くが利用する生活援助を標的にしたのです。厚労省幹部が「お世話でなく、自立を」「生活援助は将来的に合理化される」などと公言し、生活援助自体を介護保険の適用外にする狙いを隠しません。
財務省も財政制度等審議会分科会に、生活援助などを「身の回りの世話にとどまっている」とムダであるかのように描く不当な資料を提出し、「軽度者」からの“介護とりあげ”を迫りました。介護費の削減を本格化させる第一歩という位置づけです。生活援助の時間短縮を突破口にして生活援助などの「保険はずし」を行い、介護保険大改悪をすすめる―。こんなことを許せば「介護難民」を続発させる悲劇しか生みません。
サービス充実へ見直せ
政府は「財政」を理由に「軽度者」などから介護をとりあげる改悪を繰り返してきましたが、そのやり方の破たんは明白です。
高齢化がすすむ日本で介護保険の利用を無理に抑え込もうという発想そのものが間違っています。「利用制限」政策を改め、利用できるサービスを充実させる方向に転換することこそ必要です。高齢者も家族も安心して暮らし、介護労働者が生き生きと働ける仕組みづくりが求められます。