2012年10月28日(日)
主張
放射能拡散予測
原発撤退の決断急ぐべきだ
原子力規制委員会が発表した、全国の原発が東京電力福島第1原発事故に匹敵する規模の事故を起こした場合の放射性物質の拡散予測に、驚きが広がっています。規制委員会は避難が必要とされる区域を原発から30キロメートルに拡大する方針ですが、予測によれば東京電力の柏崎刈羽原発や関西電力の大飯原発など4原発で30キロメートルを超えて避難が必要とされる場所が見つかったのです。住民の安全を守るため避難計画などを具体化するのは当然ですが、いったん起きれば取り返しがつかない原発事故の被害を繰り返さないため、原発から撤退の決断をこそ急ぐべきです。
7日間で100ミリシーベルト以上
発生から1年7カ月以上たっても深刻な事態が続いている福島第1原発の事故が証明しているように、原発事故はいったん発生すれば、時間的にも長く、地域的にも広く、社会そのものを崩壊させるような被害をもたらします。世界有数の地震国で津波の被害も多い日本列島に多くの原発を建設してきた、歴代政府と電力業界など「原子力ムラ」の責任は重大です。
原発事故の最大の危険は放射性物質の拡散による汚染です。最悪の場合は生命にも関わり、環境が汚染されれば住むことも農業などを営むこともできません。国際的な基準は、そこにとどまった人が放射性物質の拡散で、7日間で100ミリシーベルトを上回る被ばくを受ける可能性があれば避難しなければならないとなっています。
規制委員会の予測は、全国16の原発について、炉心がメルトダウン(炉心溶融)した福島第1原発1〜3号機から放出されたのと同じ規模の放射性物質の放出があったか、全部の原子炉がメルトダウンしたと仮定して計算したものです。地形などの影響は考慮に入れていません。
その結果、30キロメートルを超えて避難が必要とされたのは、柏崎刈羽原発が40キロメートル以上離れた新潟県魚沼市など、大飯原発の場合も30キロメートルより外側の京都市内などとなっています。福島第2原発や中部電力浜岡原発でも30キロメートルの外側で基準を超える拡散が予測されました。
放射性物質の拡散は地形や風向き、天候によって左右されます。また、いったん事故が起きた場合、福島原発規模以上の放射性物質の拡散がない保証はありません。30キロメートルの外側への拡散が予測された四つの原発に限らず、全国すべての原発で、事故被害の深刻さが浮き彫りになったのは明らかです。
避難計画では解決しない
放射性物質の拡散が予想された区域で避難計画などを具体化するのは重要ですが、30キロメートル圏で避難計画を立てただけでも、人口は480万人にものぼります。実際には実現困難です。だいたい限られた区域で避難さえすれば「安全」と考えること自体、新たな“安全神話”です。予測を超えた事故の場合、対応できなくなります。
いったん事故が起きれば取り返しがつかない事態になるのは明らかなのに、原発の運転を続けるのは間違っています。重大事故は絶対起きないと“安全神話”をふりまいて建設が強行された原発は、避難区域の見直しだけでなく原発周辺の活断層などについても見直しが迫られています。直ちに原発からの撤退を決断してこそ国民の安全が守られ、省エネや代替エネルギーの開発も加速できます。