2012年10月24日(水)
尖閣問題 「外交不在」から「外交攻勢」へ
BSテレビ 志位委員長が語る
尖閣問題解決のためには、強い論理に立ち、「外交不在」から「外交攻勢」に転じることが必要―。日本共産党の志位和夫委員長は、22日夜に放送されたBSイレブンの政治番組「インサイド・アウト」で、二木啓孝BSイレブン解説委員、松田喬和毎日新聞論説委員と熱く議論を交わしました。ポイントを編集局で再構成して紹介します。
志位・野田会談で「思考停止は反省が必要」(首相)との発言が
二木氏は22日に行われた野田佳彦首相と志位氏との会談にふれ、「尖閣諸島問題で、志位委員長が引き出したというのはおかしいですが、野田さんが面白いことをおっしゃった」と水を向けました。
志位氏は日本政府の対応について、「領土問題は存在しない」と“棒をのんだように”繰り返すだけで、尖閣諸島領有の正当性を主張できず、反論もできないという自縄自縛に陥っていると批判し、領土に関する紛争問題の存在を正面から認めて、冷静な外交交渉をおこない、そのなかで領有の正当性を正面から主張すべきだとのべたことを紹介しました。
志位 いわば、「外交不在」から「外交攻勢」に転ずるべきだ、という提案を野田首相におこないました。
二木 それで…。
志位 私が、「自縄自縛」と指摘した問題について、「これまで思考停止になっていた」と。
二木 それは野田さんご自身も、ということですか。
志位 「これまでは思考停止になっていたことは反省しなければならないと考えています。日本の領有の正当性について内外に発信するということに努めていかなければならない」という発言でした。
私は、「領土に関する紛争問題の存在を正面から認めて、冷静な外交交渉に踏み切っていかないと、問題の解決に至らない」と話しました。そうしましたら、(首相は)「表現について検討している」といいました。
二木 日本政府は「領土問題は存在しない」といってきた。強気といえば強気ですが、志位委員長の言葉でいう「棒をのんだ」ような表現で、一歩も進まない状況でした。おやっと思ったのは、「これまで思考停止していた」と(首相が)いったのは面白い。
松田 尖閣を日本が実効支配しているのは間違いないし、志位委員長がおっしゃるように歴史的にも日本の正当性は証明されると思うんですけれども、中国もそういう主張をしているわけです。「領土問題はありません」という門前払いをくらうようなことをしていたら、一向に話し合いがつかない。その糸口を野田さんはいま模索しているんだろうと(思います)。それが志位さんのお話の中の、「思考停止」という言葉につながってきたのではないか。
「台湾受け渡し公文」、「カイロ宣言」をめぐって
|
続いて二木氏は、尖閣問題に関する日本共産党の主張を「私なりの理解で書き出してみました」と述べ、パネルを示しました。(別項)
志位氏は、物理的対応の強化、軍事的対応論は日中双方が厳しく自制し、冷静な外交交渉を行うべきだとの党の立場を説明。日本の尖閣諸島領有は国際法的にも歴史的にも正当な行為であることを3点にわたって詳細に明らかにしました。
第一は、日本は1895年に「無主(むしゅ)の地の先占(せんせん)」という法理に従って尖閣諸島の領有を宣言しているが、これは正当なものであること。
第二は、1895年から1970年までの75年間、中国が一度も日本の領有に異議申し立ても抗議もおこなっていないこと。
第三は、日本が戦争で不当に奪取した中国の領域に尖閣諸島が入っていないことです。
志位氏は、日清戦争によって日本が不当に奪取したのは「台湾とその付属島嶼(とうしょ)」ならびに「澎湖(ほうこ)列島」であり、尖閣諸島は入っていないと強調。「日本が尖閣諸島を台湾の付属島嶼としてかすめ取った」(注)という中国側の主張は成り立たないとして、次のように語りました。
(注)「日本が、日清戦争(中国名・甲午戦争)を通じて、尖閣諸島(中国名・釣魚島)をかすめ取った」とする中国側の主張は、1971年12月30日付の中華人民共和国政府外交部声明以来のものです。
志位 1895年の4月に下関条約(日清戦争の講和条約)が結ばれて、台湾と澎湖の割譲が決まる。これは日本が不当に奪った領土です。その後、6月に台湾を実際に清国から日本に引き渡すことがおこなわれました。「台湾受け渡しに関する公文」があり、「公文」に至る日中(日清)の交渉があるんです。その議事録を読んでみますと、「台湾の付属島嶼とはどこなのか」が議論になっているんです。
中国側は「島(付属島嶼)の名前をすべて書いてくれないと、後で福建省のほうまでとられたら困ることになる」と発言する。日本側は「福建省までとることはしない。台湾の付属島嶼は、それまでに発行された地図や海図で公認されていて明確だ」という。その発言を、中国側が応諾して終わっているんです。
「台湾の付属島嶼」とは何か。当時の地図を調べてみますと、どの地図も彭佳嶼(ほうかしょ・台湾の北東56キロメートル)までを台湾の北限としていて、尖閣諸島は入っていません。このように日中双方が「尖閣諸島は台湾の付属島嶼ではない」ということを了解しあっているんです。
中国側の主張は、「日本は尖閣諸島を台湾の付属島嶼として奪った」というものですが、これが成り立たないことは、歴史をひもといて調べれば明りょうです。
続いて、二木氏が、中国側が提起している根拠の一つとして、戦後処理の方針を示した「カイロ宣言」(1943年)に言及。志位氏は次のように指摘しました。
志位 「カイロ宣言」でいわれているのは、台湾、澎湖、満州のような日本が中国から「盗取」した地域は中華民国に返すということで、尖閣諸島は入っていません。「カイロ宣言」では、日本が「暴力および貪欲により略取したる一切の地域から駆逐されるべし」とし、侵略戦争で奪った土地から日本を駆逐するとしています。しかし尖閣(の領有)は侵略ではありません。ですから、「カイロ宣言」やその履行を求めた「ポツダム宣言」(1945年)に照らしても、日本の領有の正当性は明りょうです。
「領土問題は存在しない」という立場は、日本外交を弱めてきた
志位氏は「問題は、日本の領有の正当性について、日本政府が日中国交正常化以降ただの一度も中国政府に対して主張していないことです」と強調。日中双方が尖閣問題について、事実上の「棚上げ」で合意した経過を詳しく紹介し、つぎのようなやりとりに。
二木 いまの話を聞いてみると、(日中)双方で「これ以上つめるのはやめましょう」といいつつ、一方で日本が「固有の領土だから(領土問題は)存在しない」というのは、矛盾がありますね。
志位 矛盾です。「棚上げ」したということは、領土に関する紛争問題があることを自分から認めたことなんですよ。存在するからこそ「棚上げ」するわけですから。
二木 「棚上げ」にすると、外交の中で「ちゃんと議論しようじゃないか」と、向こうに主導権をとられていわれちゃう。
志位 事実上の「棚上げ」をしたにもかかわらず、日本政府は、その後、「領土問題は存在しない」というようになる。この立場に拘束されて、中国政府に対して領有の正当性を理をつくしてのべるということを一度もしていない。(今年9月の)国連での(日中間の)「論争」でも、日本は中国にたいして、ちゃんとした反論をしていません。2度目の「反論権」の行使のさいには、結局、「領土問題は存在しない」とのべ、まともな反論なしに終わってしまっています。
日本の主張をいうこともできなければ、反論をいうこともできず、日本の外交を弱めてきた。ですから私の提案は、「領土問題は存在しない」という立場を改めて、領土に関する紛争問題が存在することを正面から認め、冷静な外交交渉をおこなって、日本の領有の正当性を中国側に正面から主張すべきだということです。
二木氏 「そういうことが政府の統一見解として展開されないと」
話題は尖閣問題だけでなく、竹島問題にも広がりました。
二木 志位委員長がおっしゃった、「領土に関する紛争問題は存在する」という言い方は、竹島も「北方領土」も共通認識で、これをまずベースに置けということなんですね。
志位 そうですね。竹島との関係ではこういう問題があるんです。尖閣は日本が実効支配し、「領土問題は存在しない」といっています。竹島は韓国が実効支配し、「領土問題は存在しない」といっている。日本は、尖閣のほうでは「外交交渉をしない」といいながら、竹島のほうでは「外交交渉をしてくれ」といっている。
二木 ダブルスタンダード(二重基準)ですね。
志位 ダブルスタンダードです。ですから尖閣問題で「領土問題は存在しない」という棒をのんだような態度を改めて、領土に関する紛争問題の存在を正面から認めて「外交交渉でやりましょう」とどーんと構えれば、竹島でもプラスに響く。ダブルスタンダードではなく、外交交渉を一貫して主張するという一貫性が確保できるんですね。
二木 そういうことが冷静に議論されて、日本の政府の統一見解として新たに展開されないと、なかなか進まないのかなと思いますね。
志位 領土の問題は、相手国の国民をも納得させるぐらいの強い論理と、意気込みでやらないと、解決しません。
深津氏 「新しい視点で尖閣問題を考えることができた」
二木氏 「『領土問題はない』といった途端にこう着状態に」
番組の最後に、司会の二木氏とニュース・キャスターの深津瑠美さんがコメント。深津さんは「歴史をふりかえって、細かい話を聞くことができたので、新しい視点で尖閣問題について考えることができたように思います」。二木氏も「志位さんがいうように、『領土問題はない』といった途端にこう着状態に入っちゃう。もう少し柔軟にという提案はなかなかな、と思いました」と語りました。