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2012年10月6日(土)

きょうの潮流

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 映画監督が、もっぱら自分を撮る。孤独な姿から、いったいなにがみえてくるのでしょう▼「私はいま、映画を撮れない。だから自分を撮っている」。韓国のキム・ギドク監督が、昨年公開の「アリラン」で語ります。その3年前、劇映画の撮影中に事故がありました。自殺の場面。女優が、危うく本当に命を落とすところでした▼監督は、山間のぽつりと建つ小屋に独り住み、自問自答します。うちひしがれ悔いる私。しかし映画を撮るよう、みずからを奮い立たせる私。矛盾する私にさめた目でカメラを向ける私。「アリラン」は自分に目をこらす、1人の人間の再生をめぐる心理劇でした▼いま公開中なのが、イランのジャファール・パナヒ、モジタバ・ミルタマスブ両監督の「これは映画ではない」です。自宅アパートに軟禁中のパナヒ監督は、“国家の安全を脅かした罪”で20年間、映画づくりを禁じられています。社会を撮れないから自分を撮る。「映画ではない」と、皮肉たっぷりの断りをいれて▼未完の作品を語るパナヒ監督は、痛々しい。しかし、仲間の助けを借りて撮ります。歩き回るペットのイグアナの、鮮やかな色やとぼけた表情。訪ねてきた隣人とのおかしなやりとり。身をもって弾圧を告発しつつ、いつの間にか身辺をゆたかな映画空間に変えてしまいます▼この作家魂こそ、監督自身の、ひいては映画の希望でしょう。そして、表現の自由が脅かされるおそれはイランだけの話ではない、わが日本でも、と気づきます。


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