2012年9月23日(日)
領土問題をどう解決するか
ニコニコ動画 志位委員長の発言
20日に生放送されたニコニコ動画の番組「まるごと紹介! 一気に見せます共産党!」で、日本共産党の志位和夫委員長が尖閣諸島や竹島問題について語った部分の要旨を紹介します。インタビュアーは政治ジャーナリストの角谷浩一氏です。穀田恵二国対委員長が同席しました。
「反日デモ」で暴力に訴えることは絶対に許されない
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角谷 ところで中国との関係はどうなっているんでしょう。
志位 日本共産党と中国共産党との関係は、1998年の関係正常化以降は、多面的な交流が発展しています。同時に、“いうべきときには、モノをいう”という立場をとってきました。
角谷 その「いうべきこと」ですけども、今日もお二人は(首相)官邸にのりこみましたね。それは、尖閣の問題(ですね)。
志位 そうです。
角谷 どういうふうに共産党は尖閣問題を考えているのですか。
志位 それを少し説明させていただきましょうか。尖閣問題を考える際に、まず、いま「反日デモ」をやっていますね。どんな理由があっても、暴力で表現すると(いうことは)、絶対に許されない。中国にいる日本人、日本企業、日本大使館をしっかり守るための措置に万全をつくせというのが第一点(です)。
角谷 それは日本政府にももちろんそうだけれども、中国政府にいうと(いうことですか)。
志位 いいます。
角谷 つまり、尖閣問題については、日本共産党は、いささか中国政府の対応には怒っていると見ていいんですか。
志位 いまの「反日デモ」のようなやり方はまずい。
角谷 よくない。
尖閣諸島――日本の領有は歴史的にも国際法上も正当
志位 それが一つです。それから尖閣諸島についての日本共産党の立場なんですけども、私たちは突っ込んだ「見解」を2年前に出したんですよ。きょうの官邸への申し入れでも、その中心点は言ったんですけれど、尖閣については、日本の領有の正当性は、歴史的にも、国際法上も、明らかだというのが私たちの立場なんです。
尖閣を日本に編入したのは1895年1月なんですけれども、そのときは、どの国の実効支配も及んでいないということを、当時の明治政府がかなり慎重にたしかめたうえで、編入の手続きをしているんですね。つまり、「無主(むしゅ)の地」の「先占(せんせん)」というんですけども、持ち主のない土地を先に占めると(角谷「先に占めるですね」)。こういう手続きをとったわけですから、国際法上、正当だというのが第一点です。
角谷 手続きをとるって、どこにとるんですか、そのころは。
志位 日本がきちんと領有の宣言をする。これで十分なんです。
角谷 “うちのものだよ”と、告知するんですね。
志位 そうです。そして、その後、実際に古賀辰四郎さんという人が中心になって、アホウドリ(の羽毛の採取)とか、カツオブシ(の製造)とか、そういうことをやっている村もあったんです。実効支配もしていた。ですから、これはもう明瞭な日本の領土だといえます。
それから、二つ目の点は、中国の主張の一番の弱点はどこかと(いいますと)、1895年に日本が領有を宣言してから、1970年まで75年間にわたって、一度も日本の領有に対して異議も抗議もいってこなかったと(いうことです)。これは一番の中国側の主張の弱点ですね。もし、中国のものだというふうに思っていたんだったら、抗議すべき、あるいは異議をいうべきですが、一度もいっていない。領土問題というのは、そんなに長い時期(異議を)いわなかったら、決着がついてしまうというのが、普通なのです。
それから、三つ目の重要な点は、中国の主張というのは、(1894年〜)1895年の日清戦争に乗じて(尖閣諸島を)日本がかすめとったという主張なんです。しかし、これは、根拠がない。私たちは、日清戦争の講和条約、つまり下関条約に関するすべての記録を調べてみましたけれども、下関条約で日清戦争の結果として清国から奪取したのは、台湾とその付属島嶼(しょ)と澎湖(ほうこ)列島だということがはっきりしていて、そこに尖閣諸島というのは出てこないんですよ。それから台湾を実際に(清国から)日本に引き渡す際に、どの島を引き渡すかということが(日本と清国の間で)問題になったときも、尖閣は、まったく問題外だったんです。
ですから、日本が、日清戦争で奪ったのは、台湾と澎湖列島で、これは返さなきゃダメですよ、不当に奪ったものですから。しかし尖閣というのはもともと違う、まったく別系統のものなんです。
角谷 なんか、官房長官の説明よりずっとこっちのほうが明瞭なような気がするんですねえ。(一同笑い)
志位 それをずっといっているんですよ。つまり、尖閣諸島の領有は、日清戦争という侵略主義、領土拡張主義によって奪ったものとはまったく別の問題なんだということです。
角谷 これはいいなあ。
日本政府は、領有の正当性を一度も理をつくして主張してこなかった
志位 これが、私たちの見解なんです。問題は、いま私がいったことを、日本政府は中国政府に対していっていない(ということです)。国際社会にもいっていない。つまり理をもって中国に領有の正当性を主張するっていうことを一度もやっていないんです。
角谷 それは外交としてダメですよね。
志位 外交としてダメです。私は、今日の官房長官との会談で、二つの点がダメだと(言いました)。一つは、日中国交正常化をやった1972年、田中角栄首相と(中国の)周恩来首相と会談をやっている。ここで尖閣のことが1回だけ話題になっているんですけど、議事録を見ますと、田中首相が、「尖閣諸島についてどう思いますか」と聞いているんです。
角谷 田中さんのほうが。
志位 聞いているんです。それに対して周首相が「いまこれを話すのは良くない」、これで終わりです。つまり、事実上の「棚上げ」の合意をやったんです。
角谷 周首相が、いまこれを話すのはよくないと答えて、双方でこの問題を「棚上げ」するという、事実上の合意がかわされたと(いうことですね)。
志位 かわされたと、これは事実なんです。
角谷 先送りを宣言しちゃった、2人で。
志位 「棚上げ」を宣言しちゃった。それから、1978年、日中平和友好条約を結んだときに、このときは園田さんとケ小平さん(中国副首相)が会談しているんです。
角谷 園田直外務大臣(ですね)。
志位 園田さんの回想記(『世界 日本 愛』、1981年)で、どういうことをいっているかというと、ケ副首相が「二、三十年放っておこう」といったのに対して、「閣下、もうそれ以上いわんでください」といっています。これは「棚上げ」の暗黙の了解ですね。72年の(国交)正常化、78年の(日中)平和条約、尖閣の領有の正当性をちゃんと理をつくしていうべきときが、この2回だったわけでしょう。そのときに両方とも「棚上げ」しちゃったんです。
角谷 いま自民党総裁選で、たくさんの方が威勢のいい話をされていますけれども、元は自民党の…。
志位 元は自民党(の責任)ですよ。はっきりいって、だらしない外交を自民党はやってきた。
角谷 民主党だって知らないことばっかりじゃないですか。
「領土問題は存在しない」と棒をのんだように繰り返し、自縄自縛に陥る
志位 もう一つ問題があると(官房長官に話しました)。そういう「棚上げ」をしておきながら、「領土問題は存在しない」と、棒をのんだように繰り返すだけで、中身をいわないわけです。
角谷 フタをしちゃっただけ…。
志位 フタをしちゃっただけ(です)。「領土問題は存在しない」ということを(日本政府は)いうために、たとえば、中国側は「日清戦争に乗じてかすめ取った」というでしょう。(それに対して)日本側は何の主張も反論もしない。そういう関係になっている。
角谷 (領土問題が)存在しないんだから何もいわないと(いうことですね)。
志位 「(領土問題は)存在しない」からいわないと。(主張や反論を)いうと、領土問題の存在を認めたことになっちゃうということで、「自縄自縛」に陥っちゃったと(いうことです)。
角谷 それは原発の話と似てますよね。安全だっていうことになっていますから(志位「そうそう、そうそう」)。安全ですからといって、安全じゃないことが想定できなくなっちゃったんですよね。
志位 そうそう。「領土問題は存在しない」といってしまったから、領有の正当性もいえないし、向こうから何をいわれても反論できない。主張も反論もできないと(なります)。
角谷 これは自民党と外務省の責任大じゃないですか、もともとが。
志位 大なんです。だから、私、今日(政府に)提起したのは、「領土問題は存在しない」っていう棒をのんだような硬直した対応じゃなく、領土に関する紛争問題は存在しているんだから、それを認めるべきだということです。
角谷 志位さん、これはメチャクチャおもしろい。なぜならば、世の中の人は、棒のような硬直化したことをいうのは共産党だと思ってたんです。(一同爆笑)。実は硬直化しているのは自民党だったり、外務省だったり。
領土に関する紛争問題の存在を認め、外交交渉のなかで領有の正当性の主張を
志位 いうべきことをちゃんといっていない。反論もしていない。(中国に)いわれっぱなしになっている。「領土問題は存在しない」というのは、一見「強い」ようにも見える。しかし、主張もしなければ反論もしないんだから、一番日本の外交を弱くしている。
だから、今日は、(政府に)そこは転換しなさいといいました。「領土問題は存在しない」という立場をあらためて、領土に関する紛争問題があることは、誰が見ても疑いがないんだから、それを正面から認めて、外交交渉を正面からやって、外交交渉のなかで、中国に対して領有の正当性を堂々と説けと(いいました)。
「国有化」をめぐって――ここでも「外交不在」が問題
角谷 じゃあ、今回、日本政府が国有化しましたけれど、「ここはこのままです」「もう何も変えませんから」っていうのは間違っている(と思いますか)。
志位 「国有化」の問題は、島の平穏な管理のうえで、私たちは当然のやり方だと考えていました。ただ、この「国有化」一つをやるのでも、たとえば、(ロシアの)ウラジオストクで、(中国の)胡錦濤さん(国家主席)が野田首相に“国有化はやめてくれ、国有化をやったら大変なことになる”といったわけです。その2日後に、閣議決定で決めちゃったでしょう。やっぱり、相手の国家元首が“国有化はやめてくれ”といったわけですから、国有化が必要だという立場であったとしても、しっかりと外交交渉をやって、“カクカクシカジカですすめるのです”ということを相手側に徹底的に説明して、問題を解決する努力をする必要がある。そういう努力をしないままにことをすすめた。結局ここでも、外交不在なんですよ。
角谷 “外交音痴”ですね。
志位 外交不在でやったのが問題です。
角谷 日露首脳会談のとき、こういう話(領土問題)になったというときも「そんなこといっていない」とロシアからいわれて…。自分のところでおきたことも(説明できない)。
志位 まあ、官僚の書いた紙を読んでいるだけで、自分の頭で考えた外交をやっていないことが問題ですね。
角谷 いまの話を官房長官にいっても、なんかこう…。
志位 官房長官との会談で、重要だと感じたのは、私が、「結局、『領土問題は存在しない』ということばかりいうから、自縄自縛になって、言うべきことも反論すべきこともいえなくなっているではないか」といったら、「たしかに、自縄自縛という疑問は検討すべき疑問です。検討します」といいましたよ。
中国の政府と党にも日本共産党の立場をきちんと伝える
角谷 もっというと、もし中国共産党とのいろんなチャンネルが日本共産党にあるなら、二重外交だろうが、これは乗り込んでいって、話をするのはできないんですか。
志位 可能な条件をつくってやりたいと思います。明日(21日)は、中国大使館にうかがって、大使にお会いして、突っ込んで私たちの立場を中国政府に直接お伝えします。それを中国の(政府と党の)指導部に伝えていただくということになると思います。中国にも直接私たちの立場を伝えることは、これはやるつもりです。
角谷 仲がいいからいろんな話ができると思ったら、実は外交は、仲がいいといわれるアメリカに一番モノが言えないっていう感じじゃないですか、日本の外交ってのは。アメリカが怒ったら大変だからっていうのは、日米同盟の深化なんて、ぜんぜん深化してなくて。
志位 アメリカのほうからも軽んじられますものね、結局。
侵略戦争への反省をきちんとしてこそ、道理ある解決ができる
角谷 逆にいえば、日中関係は、行き違いや掛け違いいろいろあるでしょう、政権が変わってからいうことが変わるのもでてくるでしょう、だけど、もしかしたら、本当にちゃんと話ができていなかったんじゃないか(と感じます)。
志位 本当にそうです。日中関係というのは、もっと根源をたどりますと、国交正常化交渉のときに、日本の過去の侵略戦争について、きちんとした反省がない。
角谷 日本側が?
志位 日本側がやっていない。
なぜ、尖閣問題で日本政府が及び腰か。この問題をたどると日清戦争までさかのぼるわけです。日清戦争というのは、結果を見れば明らかなように、中国の領土を奪った侵略と領土拡張の戦争でした。しかし、そういう問題についても、きちんとした歴史認識がないでしょう、自民党の政権にもなければ、いまの政権にもない。
ところが、尖閣問題を本当にきちんと日本の立場にたって、解決しようと思ったら、日清戦争で日本が奪った領土はどこなのか、そうではない領土はどこなのか、これを仕分けしないといけない。奪ったのはさっき言ったように、台湾と澎湖列島です。尖閣諸島はそうじゃない。この仕分けをきちっとしてこそ、解決する。
これは、逆にいうと侵略戦争に対する反省をちゃんとやってこそ、仕分けができる。侵略戦争に対する反省がないと、侵略で奪った領土と、そうじゃない領土の区別が、自分でもつかなくなる。そういう問題なのです。
角谷 共産党に話をうかがうと生活や雇用や消費税の話、こういう話がどうしても広がるでしょう。でも、こんなに外交に一本スジが通って、尖閣について日本政府もむにゃむにゃしてやってこなかったのに、「うちはずっとそう思っているし、やっているし、いってきました」という話は、実は一番、政党として長く、90周年の政党が、ここは譲れませんよとか、はっきりしているじゃないですか。これは本当に。
志位 外交というのはもちろん駆け引きもあるでしょう。それから、利害得失も当然考えないといけないこともあるでしょう。しかし、領土問題というのは、歴史の事実と国際法の道理にたって、理詰めでやっていかないと、感情論でやったら絶対に解決するものではありません。
竹島問題――植民地支配への反省が、冷静な話し合いのテーブルをつくるうえで不可欠
角谷 竹島についてはどう考えればいいですか。
志位 竹島についても、私たちは日本の領土だと(主張しています)。歴史的にも国際法上も日本の領土だという見解を持っています。ただ、竹島は尖閣とは違った事情もあります。竹島を日本に編入したのは、1905年なんです。1905年に島根県に編入した時期と、日本が韓国を植民地にしていった時期が重なっているという問題がある。
角谷 なるほど。
志位 ですから、韓国側からすると、時期が重なっているものですから、「日本による植民地支配の象徴だ」というふうにとらえるわけです。
私たちは、この問題を冷静に解決するうえでは、日本が韓国の植民地支配に対する反省をきちんとやる、そうすることが冷静な話し合いのテーブルをつくるうえで不可欠だと主張しています。
角谷 最近、日本共産党は韓国政府から大変気に入られているじゃないですか。(一同笑い)
志位 私は、(2006年に)韓国にいったときに、いまのセヌリ党、かつてのハンナラ党の院内代表をやり、そのあと国会議長になった、金炯旿キム・ヒョンオ)さんと会談しました。靖国問題とか、教科書問題など、いろいろやりました。そのなかで、先方が、「独島」――竹島問題についてぜひご理解いただきたいといってきました。「竹島については、日本共産党は日本の領土だという見解を発表しています」といったら、「日本共産党がですか」とびっくりしたような顔をするんです。
ただ私は、同時に、「竹島を編入した1905年という時期は、日本が韓国を植民地化していった時期と重なっています。だから、そういうこともよく考えて、植民地支配への真剣な反省のうえに、お互いに冷静に事実をつき合わせる共同研究をやったらどうでしょうか」という提案をしたんです。そうしますと、「いいお話ありがとうございます」という反応が返ってきました。
韓国で、植民地支配への反省抜きに「竹島は日本のものだ」とだけいったら、日本の政治家はボコボコになりますよ。私は、韓国に最初にいったときに、最初の韓国メディアとのインタビューでそれを聞かれて、「日本の領有の主張には根拠があるといっています。同時に、編入した時期のことも考えて、植民地支配の反省のうえに冷静な話し合いが必要だと思います」と話しました。そうしたら、非常に冷静に受け止められました。
角谷 もう外交は、共産党に任せたほうがいい。(一同笑い)
尖閣問題で道理ある態度をとることが、竹島問題の解決にもプラスに働く
志位 もう一つ、尖閣と竹島との関係という問題があります。今日、官房長官にも話したのですが、尖閣については、いま日本政府は「領土問題は存在していない」といっているでしょう。それで、外交交渉もしないという立場ですよね。実効支配は日本がしています。ところが竹島についてはどうかというと、実効支配は韓国がやっていて、そして韓国が「領土問題は存在していない」といっていて、日本政府は外交交渉を求めている。
そうすると、日本は竹島のほうでは「外交交渉をしてくれ」といっている、尖閣では「外交交渉はしない」といっている。これは、ダブルスタンダード(二重基準)になるんですよ。
角谷 そうですよね。
志位 だから、(尖閣、竹島の)両方とも、外交交渉で解決するというふうにドーンと構えてやると、竹島の(問題を解決する)ほうにもプラスに響くことになるのです。私は、こういうふうに、官房長官にいったんです。そうしたら、官房長官は「(ダブルスタンダードというのは)そうみえますね、確かに」と言いました。
角谷 何を初めて聞いたみたいなこといってんだろうね。(笑い)
志位 尖閣で道理ある態度をとると、竹島にもプラスに響く。こういう関係なんです。
角谷 どうしていままでできなかったんですか。
志位 竹島についても、過去の植民地支配の反省を日本政府がちゃんとやっていないものですから、後ろめたいのでしょう。だから、きちんとした解決を政治としてやれなかったという問題がありますね。