2012年9月5日(水)
原発事故 福島のいま
避難生活・闘病…B型肝炎患者 二重の苦難
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で甚大な被害を受けた福島県の人々。そのなかには、根治する治療法が確立していないB型肝炎患者もいました。原発災害とB型肝炎という二重の苦難のなか命を亡くした被害者の家族を取材しました。 (菅野尚夫)
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国・東電 心から償いを
福島県内の借り上げ住宅で避難生活をしている平田夏江さん(52)=仮名=は、震災後に兄・正彦さん=当時(60)仮名=と、母親(同89)を相次いで亡くしました。
夏江さんは「東電の原発事故さえなかったならば兄の命を縮めるようなことにはならなかった」と、悔し涙を流しました。
兄は東電下請け
正彦さんは、東京電力の末端の下請け会社で、原発労働者として働いてきました。入社して10年近くになったころ、健康診断でB型肝炎ウイルスによる肝機能障害が見つかりました。翌年、肝硬変と診断されて約2カ月間入院。その後会社から退職を迫られて退社せざるを得ませんでした。日記には「10年近く働いてきたのになぜ…」と、悔しい思いがつづられていました。
大震災が起きる前の昨年3月上旬、正彦さんは肝がんの治療のために入院先から福島の病院に転院。3月11日、大震災が起きると、患者急増にともない病院からは「歩行できて自宅に帰れるのならば帰ってください」と告げられました。翌12日、別の病院に転院させられました。
その後、実家を経て親せき宅に避難。腹水がたまるなど病状が悪化したために3月下旬、福島の病院に再入院。4月上旬、同病院からさらに別の病院に転院し、6月に亡くなりました。災害関連死と認められました。
兄正彦さんの入退院のたびに付き添って、送り迎えなどをして支えになってきた夏江さんは言います。
「兄が死に追いやられた状況は、東電の原発事故が色濃く影を落としています。実家には今も帰れません。納骨も済んでません。兄が治療に専念できず、命を縮めたことは事実です。心からの償いをしてほしい」
原告団に参加へ
夏江さんは国にきっぱりと求めています。
「母の血液検査の結果、母子感染でなかったことが分かりました。兄は一生を棒に振って亡くなりました。家族のために役立ちたいと常々思ってきた兄。その願いを果たせず、逆に家族の世話に頼らざるを得なかった事態は、苦しみの連続でした。兄を(この世に)戻してほしい。戻せないならば、こうした失政を2度とおこさないようにしてください」
集団予防接種でB型肝炎ウイルスに感染し、肝炎になった被害者が、感染防止を怠った国に損害賠償を求めた裁判。和解基本合意から1年たちました。裁判資料をそろえるのが困難な被災地の福島県で被害者約40人が1日、原告団を結成。夏江さんたち遺族は原告団に加入する準備をすすめています。