2012年8月16日(木)
原子力委 身元調査を要望
原発から“不適格者”排除
情報隠しの仕掛けづくり
原子力発電所にたずさわる民間人の政治信条、経済状況や通院歴、家庭状況などのプライバシー情報を行政機関が調べ、“不適格”と判断した場合には業務から排除できる「適性評価制度」のすみやかな導入を内閣府原子力委員会が要望していることが15日、同委員会の文書でわかりました。原子力業界の隠ぺい体質が明らかになる中、“隠しやすい”仕掛けづくりをすることは重大です。
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この文書は、原子力委員会内の専門部会が今年3月にまとめた報告書「我が国の核セキュリティ対策の強化について」。適性評価制度について明記しています。
もともと「適性評価」は、野田内閣が今国会への提出を計画する「秘密保全法制」に盛り込まれているもの。
秘密保全法案の国会提出はまだですが、同報告書は「秘密保全のための法制の進ちょく状況にかかわらず、本分野独自の観点から、信頼性確認制度(適性評価のこと)を導入するべき」と先取りを求めています。
適性評価の対象には、電力会社の社員のほか、「(原子力施設に)アクセスする協力会社の従業員についても同等の信頼性確認を行うことが必要」と言及。施設内での作業や調査研究、物品の納入、警備、運搬、工事の関係者など、適性評価の対象者は広範囲になります。
秘密保全法制を検討した政府の「秘密保全の在り方に関する有識者会議」の報告書によると、適性評価では「我が国の不利益となる行動をしないこと」を調査のポイントとしています。
「不利益」と判断するのは、評価する行政機関側です。評価方法を第三者がチェックできない欠陥も指摘されています。
具体的な調査項目は非公開とされています。一部明らかになっているだけでも対象者の学歴や職歴、親族や経済状況、精神科への通院歴などのプライバシーを侵害するものとなっています。他にも「影響を与え得る者」として交友関係も調べるとしており、憲法がうたった思想信条の自由や基本的人権を侵害する内容です。
専門部会の報告書は、調査のために警察などとも連携をとる必要性をうたっています。
こうした調査をめぐっては、政府が2009年以降、少なくとも国家公務員5万3000人超に本人の同意を得ずに行っていたことがわかっています。
経済産業省原子力安全・保安院が電力会社と一体となった情報隠しは国民の強い批判を受けています。こうした中、適性評価制度は、公益通報者などの“不正監視の目”を排除することになりかねません。
秘密保全法 先取り許すな
秘密保全法制に詳しい吉田健一弁護士(憲法会議代表幹事)の話 報告書は、福島第1原発事故にかこつけてテロ対策を強調し、そのために関係する技術者・労働者を徹底して調査し、排除する「適性評価制度」の導入に結びつけようとしています。
しかし、それはもっと情報を開示すべきという国民の声に逆行し、情報を隠しやすくしようとするものです。人権や民主主義に重大な影響を及ぼす秘密保全法制の先取りを許してはなりません。