2012年8月12日(日)
主張
「空の安全」
規制緩和は命を脅かす逆行
日本航空のジャンボ機が群馬県上野村の御巣鷹の尾根に墜落した大惨事(1985年)から12日でちょうど27年です。単独機としては航空史上最悪の520人の命を奪った悲劇を繰り返さないため、「絶対安全の確立」という鉄則を深く心に刻む必要があります。
ところが、いま政府は航空機の安全にかかわる規制緩和を大規模にすすめています。「航空会社の低コスト化支援」が目的です。企業利益のため「空の安全」への責任を放棄することは許されません。
「コスト減」優先の発想
国土交通省は7月末、航空安全の規制「見直し」についての有識者会議報告書を公表しました。16の航空会社などが要求していた129項目のほとんどを受け入れ、実施工程を明記したものです。
民主党政権の掲げる「日本再生戦略」の一環として、格安航空会社(LCC)の参入などを拡大する狙いです。運航の安全問題に直結する項目が列挙されています。
その一つが、乗客が機内にいる間も給油を可能にする規制緩和です。着陸から離陸までの時間を短縮し飛行機の稼働率を上げたいLCCの要望を受け入れたものです。燃えやすい航空燃料は引火した場合、大事故につながるため搭乗中給油は原則禁止だったのです。「効率化」のために安全を置き去りにすることは無謀すぎます。
60歳以上のパイロット2人乗務の容認も、育成コスト削減などの発想からです。経験を積んだパイロットの役割は重要ですが、過酷な勤務であるため、これまで健康上の不測の事態に備え若いパイロットと組み合わせてきた経過を無視したものです。
副操縦士への昇格試験を、実際の飛行機に乗るのでなくシミュレーター(模擬操縦装置)で可能にする「見直し」には、現場から「感覚の違いが大きい」と不安の声が上がっています。「実地試験にかかる燃料費コスト削減」という動機は安全を“経済効率”に置き換える危険な考えです。
国交省は「日本では日航事故後、定期路線で乗客死亡事故はない」と“安全性”を強調しますが、「安全神話」につながるおごりです。規制緩和のもと航空分野で安全にかかわるトラブルは後をたちません。スカイマークは今年6件の安全上の問題を起こし厳重注意を受けました。業界全体で年間800件程度のトラブルがあることを直視しなければなりません。
公共交通における規制緩和と新規参入促進による過当競争は、労働者の健康まで脅かす無理な運行を強います。それが乗客を危険にさらす重大な結果をもたらすことは、高速ツアーバス事故の続発からも明らかです。「空の安全」に逆行する規制緩和に突き進むことはただちにやめるべきです。
大企業優先から転換を
日航が事故後きびしく問われた利潤第一主義に走っていることは、無反省のきわみです。2010年の経営破たん後、パイロット・客室乗務員の不当解雇などをすすめ、社内に意欲低下を広げ安全上のトラブルをもたらしています。「再建」を主導する民主党政権の責任は重大です。不当解雇を撤回させ、安全無視の経営姿勢を是正する指導をすべきです。
大惨事を繰り返さないため、安全を二の次にする大企業優先政治からの転換こそが求められます。