2012年8月1日(水)
「動的防衛協力」を明記
日米軍事一体化を深化
「防衛白書」
森本敏防衛相は31日、閣議で2012年版「防衛白書」を報告し、了承されました。民間人起用の防衛相のもと、野田内閣が出す白書としては初めてのものです。
白書では、日米の軍事協力をより強める「動的防衛協力」の項を初めて設けました。中国への軍事的対抗や海外派兵を強化する「動的防衛力」構想を日米の軍事協力にも適用し、(1)共同訓練(2)共同の警戒監視活動(3)基地の共同使用―を進める考えを示しています。また、米領・北マリアナ諸島のテニアンへの日米の共同基地建設にもふれています。こうした動きは、海外での武力行使を可能とする集団的自衛権の行使につながるものです。
中国軍の動きについて「対外政策決定における軍の影響力が変化しているとの見方もある」と述べ、軍が独自に意思表示している可能性もあると指摘。また、「海軍による太平洋進出も常態化」しているなどの記述が加わり、引き続き「わが国を含む地域・国際社会にとっての懸念事項」と位置づけています。
尖閣諸島問題などを念頭に「高圧的とも指摘される対応」とした昨年の記述には、中国政府から「脅威論を極度に誇張したもの」との談話が出ていましたが、今年も踏襲されました。
北朝鮮情勢では、金正恩労働党第1書記による新体制を「国家行事や現地指導が整斉と行われており、一定の軌道に乗っていると考えられる」と分析しています。
欠陥機MV22オスプレイについては、米海兵隊普天間基地(沖縄県宜野湾市)への配備を半ページのコラムで紹介するにとどまり、今年4月に発生したモロッコでの墜落事故などにはふれませんでした。
解説
野田政権の危険性浮き彫り
2012年版「防衛白書」は「動的防衛協力」と称して米軍との軍事的な一体化をより深化させようとしている野田政権の危険性を改めて浮き彫りにしています。
4月の米軍再編に関する「2プラス2」共同発表で明らかにされた「動的防衛協力」の背景にあるのは、オバマ米政権が今年1月に決定した新たな国防戦略指針です。軍事費削減のもとでもアジア太平洋での軍事プレゼンスを維持するために、在日米軍を含む兵力の分散配置と同盟国との軍事協力強化を打ち出しました。
これを受けて、基地の提供や「思いやり予算」などハード面に加えて、中国へのけん制や海外での活動などに自衛隊を最大限活用することで米軍の穴埋めをしようというものです。
白書ではこの具体策として、日米の(1)共同訓練(2)警戒監視活動(3)在日米軍および自衛隊基地の共同使用―の拡大を検討。さらに、「日米韓、日米豪など多国間の枠組みで防衛協力を推進する」と述べており、他の米同盟国との軍事協力強化も打ち出しています。
4月の共同発表にはグアムおよび北マリアナ諸島における「共同使用」訓練場の建設に日本の税金を投入することが明記されており、白書でも検討を進めるとしています。
国家戦略会議(議長・野田佳彦首相)の「フロンティア分科会」が、集団的自衛権の行使を禁じた憲法解釈の見直しを求める報告書を提出し、首相自身も「政府内での議論も詰めていきたい」(12日、衆院予算委)と前のめりの姿勢を示しているのも、集団的自衛権をめぐる政府解釈が「動的防衛協力」具体化を制約しているからです。
「動的防衛協力」による日米同盟の“深化”は危険な動きであり軽視はできませんが、背景にあるのは、米国の力の低下です。日本が本当に自分の頭で考えて外交、安全保障戦略を打ち立てなければならない時期なのに、いっそう日米同盟にしがみつき、オスプレイ配備も唯々諾々と進める―。歴代政権の中でも突出したアメリカいいなりの野田政権の姿勢が軍事面でも如実にあらわれているといえます。(池田晋)