2012年7月22日(日)
エネルギー政策聴取会
原発推進派に有利
「ゼロ」多数でも3人まで 電力社員が一方的主張
電力会社社員の発言が相次ぎ、「やらせ」との批判があがる政府の「エネルギー政策に関する意見聴取会」。日本共産党の笠井亮衆院議員が12日の予算委員会で数々の問題点を指摘していましたが、原発推進派が有利になる意見聴取会のカラクリが改めて見えてきました。(矢野昌弘)
「『東北電力の企画部長です』と名乗ったので、会場中が『えっ』となった。さらに『会社の見解を述べます』と、メモを読みだしたから、『やらせだ』『会社の宣伝だ』と一斉に声があがった」
15日の仙台市での様子を振り返るのは、聴取会に参加した小野寺義象(よしかた)弁護士です。
仙台会場では、東北電力の関係者2人が意見表明を行いました。同社企画部長(執行役員)と、6月まで同社執行役員待遇だった「東北エネルギー懇談会」の専務理事です。
16日の名古屋会場では、中部電力原子力部の課長と原子力研究開発機構の職員が発言しています。
聴取会は、2030年の原発の割合をどうするか、「0%」「15%」「20〜25%」の3択に分かれて、それぞれ3人ずつ発言する方式です。「0%」の発言希望者が多数でも3人しか発言できません。(図下参照)
「安全」と強弁
聴取会はわずか1時間半ほど。質疑応答がなく、電力社員らの一方的な主張の場となりました。
一つは、名古屋での「放射能の直接的影響で亡くなった人は1人もいない」という中電課長の発言。同社に多くの批判が集まり、中電が謝罪する事態に。
仙台では、「東日本大震災・津波の時、女川原発は安全だった」という東北電力企画部長の発言にも、批判があがっています。
女川原発(宮城県女川町)は実際には、震災当日、外部電源5系統のうち4系統がダウン。かろうじて1系統「松島幹線2号」が残って最悪の事態を回避しました。しかし1カ月後の4月7日に起きた余震で、「松島幹線2号」もダウン。残った別の1系統だけで回避したのが実態です。
「実際は大事故と紙一重で、発言は大間違い」と話すのは日本共産党の高野博女川町議。報道でこの発言を知りました。「東北電力は実態を過小評価して、聴取会で新しい『安全神話』を振りまいている」と怒ります。
なぜ結論急ぐ
聴取会には、この他にも多くの疑問符がつきまといます。
その一つが、開催地の選定です。北陸では、中心都市の金沢市ではなく、北陸電力の“本拠地”富山市で開かれます。開催する11会場のうち、福島市とさいたま市を除く9会場は、各電力の本店がある場所です。
電力社員の参加と開催地との関係は―。
本紙の取材に、東北電力と中部電力は、「関係部署に聴取会があることを事前に周知した」(中電)とのべ、社員が参加することも把握していたことを認めました。また21日には、中国電力が、社員を聴取会に参加させる予定だったことも明らかになりました。
さらに、意見聴取会やパブリックコメントの公募の期間が、8月上旬までと短期間なのも大問題です。政府は、8月中にエネルギー戦略を決定するとしています。
なぜ、電力会社や経済界が夏の電力危機を理由に原発再稼働のキャンペーンを展開するこの時期に結論を急ぐのか、疑念は強まります。
今後の聴取会について政府は、発言者を12人に増やすなどとしていますが、“結論ありき”の拙速な決着を許さない国民的監視が必要です。
原発存続へ誘導狙う
日本共産党の笠井亮衆院議員の話
疑問だらけの「意見聴取会」の持ち方を予算委員会で追及したのに対して、古川元久国家戦略相の答弁はしどろもどろでした。案の定、国民多数の世論に逆らって、今後も原発をなくさないという結論に持っていくための仕掛けであることがはっきりしました。
こんな「聴取会」は直ちにきっぱり中止すべきです。国民の意見を聞くというなら、まずは野田首相自身が、原発再稼働に抗議して毎週金曜日に官邸前に集まってくる人たちと会うべきです。
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