2012年7月11日(水)
「社会保障推進法案」きょう参院審議入り
これでは社会保障解体宣言
民主・自民・公明3党が談合して国会に提出した「社会保障制度改革推進法案」が、11日に参院で審議入りします。社会保障を根本から変質、解体すると同時に消費税の大増税を招くその中身は―。 (西沢亨子)
「皆保険」が消えた
今回の法案からは、これまで政府の文書で必ずうたわれてきた「国民皆保険の堅持」の言葉が消えました。
国民全員が公的保険に入り「平等に、必要な医療サービスを受けられる」「世界最高レベルの保健医療水準の実現を支えた」と厚労省自身、「皆保険」を誇ってきたものです。
替わって「改革の基本方針」に書き込まれたのが、医療の「保険給付の対象範囲の適正化」。窓口負担の引き上げ、風邪など「軽い」病気や先進医療は全額自費―などとし、保険証はもっていても必要な医療が受けられない状況を招きます。
介護でも、家族に頼らない「介護の社会化」や「サービス提供体制の充実」のうたい文句が消え、「保険給付の対象範囲の適正化」と、介護サービス削減を明確にしました。
医療、介護に限らず社会保障制度改革の「基本」として、社会保障費用の「抑制」を明記。給付削減と公費縮減の方向をはっきりと書き込みました。
民間保険と救貧に
過酷な社会保障削減を行った小泉政権でさえ建前では掲げていた看板を捨て、社会保障を目的や理念から根本的に変えるのが今回の法案です。
同法案は、社会保障の基本理念を「国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互および国民相互の助け合いの仕組みを通じて…支援していくこと」としています。国の責任は、「自助」「助け合い」の環境整備にとどまります。
すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障し、社会保障の向上・増進に努めなければならないと国の責任を定めた憲法25条を放棄しています。
今回の法案は「目的」に「受益と負担の均衡がとれた制度の確立」を掲げます。
民間保険では払った保険料に応じて給付されます。しかし生存権を守るには、払った保険料にかかわらず、必要に応じた給付が必要です。個人の負担と給付を切り離し、支払い能力に応じて負担を求めて所得の再分配をするのが社会保障です。
「受益と負担の均衡」とは、年金、医療などの公的保険を、民間保険のようなものに変質させる方向です。
この法案は、自民党のつくった法案を民主党がのみ込んだもの。「自民党の哲学が貫かれて」(鴨下一郎衆院議員)います。
自民党は、「自助努力を怠る国にする」と社会保障の拡充を攻撃しています。「自助」「共助」に任せ、「やむを得ざる事情で自助努力」ができない人にだけ救貧対策をとる―のが“哲学”です。
今国会でも、「介護保険が始まった当時は『国の施しは受けない』と言う方もいた」「憲法で保障される権利を非常に制限されるから、生活保護はいただける」(松浪健太衆院議員)と、社会保障を「施し」とみる憲法否定の“哲学”を得意げに披歴しました。
法案は、「国民会議」を設け、そこでの議論なども踏まえて、法の施行後1年以内に制度「改革」に「必要な法制上の措置」をとるとしています。社会保障を民間保険と救貧策に変質させかねない大改悪にレールを敷いています。
財源は消費税限定
今回の法案のもう一つの重大な中身は、社会保障の公費の「主要な財源には、消費税および地方消費税の収入を充てる」としていることです。消費税が主要な財源だとなれば、社会保障が消費税収の範囲に抑えられてしまいます。
野田政権が成立を狙う消費税増税法案では、消費税の増税分は社会保障財源に充てるとしているだけです。社会保障の主要な財源を消費税にすると書いた法律はこれまでありません。
消費税だけでまかなうとすれば、現時点でも税率20%が必要です。「10%に増税しても全然足りない」となります。政府の試算では2025年度に社会保障の公費は約61兆円。消費税だけでまかなえば税率は25%近く必要です。大増税と同時に社会保障の大削減が押し付けられるのは必至です。
デンマークは消費税収の約2倍、ドイツは1・5倍の公費を社会保障に使っています。所得税や法人税などの基幹税を社会保障に充てるのは当然で、財源を消費税に限定するなど、世界でも異常です。(グラフ)
消費税を大増税しながら社会保障は解体、“高負担・低福祉”の国を宣言するのが民自公3党の「社会保障解体法案」です。
増税反対の世論広げ断念に追い込もう
小池晃党政策委員長
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民自公3党の社会保障制度改革推進法案は「社会保障解体宣言」です。政府は、「消費税増税は社会保障をよくするため」と宣伝してきましたが、その看板は完全に落ち、消費税増税と同時に社会保障削減を進める「一体改悪」の正体がむき出しになりました。まったく未来のない道です。
これまで「社会保障がよくなるなら、消費税増税も仕方がない」と思っていた人の期待も完全に打ち砕くものです。日本医師会も「懸念」を表明しています。消費税増税反対の一点で申し入れや懇談に取り組み、たたかいをさらに広げたい。国民の世論と運動で談合勢力を追い詰め、「一体改悪」を断固阻止しようではありませんか。
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