2012年6月13日(水)
主張
自殺対策白書
「死に追い込む」社会変えよう
昨年1年間に3万651人が自ら命を絶ち、しかも若い世代で増加している―。内閣府の2012年版自殺対策白書は、あまりに痛ましい現実を浮き彫りにしました。年間3万人を超えているのは14年連続です。1日80人以上が自殺に追い込まれている社会は異常というほかありません。本人、家族だけでなく、社会全体にとって放置できない事態です。「救えるはずの命」が失われない社会をつくることが急がれます。
「就職失敗」原因が増加
日本の自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)24・4は、世界第8位で、アメリカの2倍、イギリスの3倍と突出した高さです。
とりわけ深刻なのは若い世代の自殺が増加傾向にあることです。年代別では15〜34歳の死因の第1位が自殺となっているのは先進7カ国のなかで日本だけです。
2011年は、学生・生徒の自殺者数が1割以上も増え、調査開始(1978年)以来初めて千人を超えました。自殺の原因・動機に「就職失敗」とされる29歳以下の人が150人にものぼっています。5年前の2・5倍です。
大学新卒者の就職率が好転しないなかで、何百社応募しても面接にすらたどり着かない、面接で威圧的な質問をされる、何十社受けても不採用―。若者が、自分の存在を否定されるように扱われ、孤立感を深め、前途ある若い人が社会のスタート地点で、死に追い込まれるような事態は一刻も早く打開しなければなりません。「就活自殺」をなくすために、大企業の採用抑制をやめさせることなど過酷な就職活動の改善が急がれます。
自殺対策白書は、若者の失業率と自殺率に密接な関係があるとし、非正規雇用の割合の増加など若年層の雇用情勢の悪化が、近年の20〜29歳の自殺率を上昇させていると警告しています。一方、依然高水準にある働き盛りの50〜59歳男性の自殺率は、企業の倒産件数の推移と同じ動きをしています。
昨年は東日本大震災直後の4〜6月にかけて自殺者数が増加しました。白書は、震災後の暮らし向きについての不安が全国的に広がったと分析しています。国民の暮らしを安定させ、希望のもてる社会にすることが自殺の要因をなくす大前提です。不安定雇用の拡大に歯止めをかけ、長時間・過密労働をなくすこと、大企業による下請けいじめをなくすなど経済社会の大本を変えなければなりません。「介護疲れ」などを生まない社会保障制度の充実も不可欠です。
年間自殺者数が3万人を突破した98年は、前年に消費税が5%に引き上げられたほか金融機関の破たんなど経済状況が一気に悪化した時期でした。いまの経済を一段と深刻にする野田政権の消費税10%への大増税と社会保障改悪の「一体改革」は中止すべきです。
生きることを支えてこそ
自殺した人の7割が死ぬ前に相談機関を訪れていたという調査結果もあります。相談体制の拡充やメンタルヘルス(心の健康)の問題にも政府や行政が積極的に対応することが必要です。今年は、自殺対策基本法にもとづいてつくられた「自殺総合対策大綱」の見直しがされます。人間が大切にされる温かい社会に変える必要な施策をすすめることが重要です。