2012年5月18日(金)
リニア新幹線の建設に反対する
東海道新幹線の地震・津波対策、大震災の鉄道復旧こそ
2012年5月17日 日本共産党
日本共産党の志位和夫委員長が17日、山梨県南アルプス市での記者会見で発表した「リニア新幹線の建設に反対する――東海道新幹線の地震・津波対策、大震災の鉄道復旧こそ」は以下の通りです。
JR東海は、東京―名古屋間を2027年に、東京―大阪間を2045年の開業を目標に、9兆円以上の資金をかけて、リニア新幹線を建設するとしている。2011年5月には、国土交通大臣が、交通政策審議会の答申を受けて、JR東海に「建設指示」を出し、現在、環境影響評価がすすんでいる。
しかし、巨額の資金を投入して、リニア新幹線を建設する必要があるのか、何のために、いまリニア新幹線建設をすすめるのか、国民的な意義はどこにあるのか。大きな疑問が寄せられている。JR東海は、重要な公共交通機関であり、リニア新幹線による経営の悪化は、国民負担やサービスダウンなど、国民生活と経済に深刻な影響を及ぼす。
ところが、建設費は、JR東海が全額負担するとしているために、需要予測が適正なのか、建設費負担にJR東海の経営が耐えられるのかなど、計画の基本に関する国民的な検証・検討はほとんど行われていない。なぜ、9兆円を超える巨額の投資を行ってまで、リニア新幹線を建設しなければならないのか、という根本問題で、JR東海からも、「建設指示」を出した政府からも、まともな説明がない。
このような巨大プロジェクトが、まともな国民的議論もなくすすめられようとしていることは重大である。
1、リニア新幹線の建設に反対し、計画の撤回を求める
日本共産党は、以下の理由で、リニア新幹線の建設に反対し、建設計画を撤回することを求める。
(1)リニア建設には“大義”がない――国民的な要望も、必要性もない
東京―大阪間の輸送需要が今後、大きく伸びて、東海道新幹線がひっ迫するという事情はない。東海道新幹線の年間輸送人員は、この20年間でほとんど横ばいの状態である。第二東海道新幹線の建設を必要とする事情はまったくない。
新幹線と飛行機が頻繁に運行している東京―大阪間で、1時間半程度の「時間短縮」への国民の強い要望や経済的社会的要請はない。
まさに建設の“大義”がないのがリニア新幹線である。
JR東海や国交省が、「地震・津波対策」としての「バイパスの役割」などと言い出したことも、この計画に“大義”がないことの裏返しである。東海道新幹線の地震・津波対策こそリニア新幹線より緊急に行うべき重要課題である。リニア建設のために、巨額の資金を今後30年以上にわたって投入することは、東海道新幹線の地震・津波対策、老朽化対策の大きな障害にならざるを得ない。
(2)国民への多大な負担と犠牲の押しつけが起きる危険性――「JR東海=民間企業まかせ」ではすまない
JR東海は、公共交通機関であり、「新事業に失敗したから倒産」とすることはできない。「穴埋め」のための公的資金投入=国民負担や、リニアの需要が予測通りに伸びないツケが、東海道新幹線の保守・点検、改修の手抜きや在来線の廃止など、リストラによる利用者へのサービスダウンにしわ寄せされる危険がある。
JR東海は、2045年、リニア開通時の東京―大阪間の輸送需要は、並行する東海道新幹線と合わせて、現在の1・5〜1・8倍になるとし、国土交通省の交通政策審議会もそれを追認している。このような「甘い見通し」で、9兆円ものプロジェクトを動かすのは無謀としか言いようがない。
工事費も、着工すれば工事費が膨れ上がるというのが、この種の建設計画の常であるが、とくにリニア新幹線は、路線の約8割がトンネルで、その大部分が大深度地下(地下40メートル以深)、南アルプスの下を20キロメートルのトンネルを掘り抜くなど難工事も予想されている。
建設計画推進は「JR東海まかせ」、うまくいかなかったらツケは国民に、ということは許されない。
(3)リニア建設でなく、東海道新幹線の地震・津波対策、東日本大震災からの鉄道網の復旧などを行うべきである
東日本大震災を受けて、JR東海として、あるいはJRグループ、日本の鉄道事業全体として、優先させるべきことは、リニア建設ではなく、東海道新幹線をはじめとした地震・津波対策である。とくに、最近の南海トラフ地震予測が発表され、津波の高さや浸水域、震度6強になる地域など、従来の想定を大きくこえる津波や地震が襲う可能性が指摘された。これへの対応こそ、緊急に行うべきである。
同時に、東日本大震災で被災した鉄道の復旧も、復興の国家的な事業である。震災復旧はJR東日本、JR東海はリニアで良いのか。
JR発足時に、旧国鉄の債務を24兆円も国民が「肩代わり」している。毎年、数千億円程度税金で穴埋めされているが、今も19兆円が「国の借金」になっている。9兆円もかけてリニア新幹線をつくる余裕があるなら、その利益の一部を国庫に入れ、「国民に返す」ことを考えるべきであり、それを東日本大震災で被災した鉄道の復旧などに充てるべきである。
(4)エネルギー浪費型の社会、交通体系にするのか――使用電力は新幹線の3倍以上
JR東海の試算でも、使用電力は新幹線の3倍以上とされている。実際に完成する路線の勾配(こうばい)などで、より多くの電力使用も指摘されている。原発事故も契機にして、省エネ社会への取り組みこそ求められている。こうしたエネルギー浪費型の交通体系を導入することにも道理はない。
(5)安全性への大きな不安を“置き去り”にする建設は容認できない
8割がトンネルで、大深度地下を走行するが、運転手は乗車せずに遠隔操縦での運行になる。事故や火災、地震などの災害から安全を確保できるのか、大きな不安がある。さらに、強力な電磁波が人体に与える影響の不安もある。
2、リニアに「まちづくり」の将来をかけていいのか――“過大な期待による過大な投資”は地域経済を押しつぶす
中間駅の建設予定地などでは、リニアを地域経済の活性化の「起爆剤」として、開発計画をたてようとしている。リニアを口実に大型開発を推進しようという動きが、すでに始まっている。これまでの空港や高速道路などを口実にした大型開発の失敗と自治体財政の危機、住民サービスの切り捨てという、全国のあちこちで、それこそ山のように起きた過去の過ちを繰り返すのか、問われている。
しかも、リニア新幹線は、東京―名古屋―大阪間の1時間〜1時間30分程度の時間短縮だけを目的にしたものである。従来の新幹線計画、整備新幹線よりも、はるかに極端な大都市間輸送中心の交通システムである。
中間駅の建設予定地は、地域経済の疲弊や人口の減少、過疎と高齢化などの問題に悩むところも多い。それだけにリニアにかける期待、何とかすがりたいという気分も生まれる。しかし、中間駅の主要目的は旅客輸送ではなく、運行上の都合、緊急用の避難場所としてつくられる。地方都市から東京や大阪への旅客は相手にしていないために、在来線の駅との接続は眼中になく、まちづくりの計画とも無関係である。その結果、中間駅は、地方都市の中心からも離れた不便な場所につくられ、「駅まで1時間、東京まで30分」などと言われる。
アクセスのための道路や鉄道整備が、地元自治体の負担になれば、もともと財政力の弱い自治体を圧迫する。リニアに過大な夢を託し、アクセスのための大きな投資が、まちを押しつぶすことになれば、リニアは、「夢の超特急」どころか、「悪夢」になりかねない。
過大な期待で、過大な投資をすれば、そのしわ寄せが地域経済に押し付けられる。とくに、自治体や地方政治の役割として考えなければならないのは、公共投資だけでなく、住民や地元業者に、リニアに過大な期待をかけさせることへの責任もある。公共だけでなく民間の投資もリニアに合わせてすすめ、結果が「見込み違い」となれば、住民を大きくミスリードすることになる。地方自治体と地方政治の見識が問われている。
新幹線開通後の地方経済をみると、「効果」だけではなく、「ストロー現象」の影響も慎重な検討が必要である。
リニアにまちづくりの将来をかけていいのか、リニアだのみの活性化はきわめて危険である。