2012年5月13日(日)
タイ 最賃4割上げへ
人間を尊厳ある存在に 購買力高め経済活性化
【バンコク=面川誠】タイ政府は来年から、最低賃金(日額)を約40%引き上げ、全国一律300バーツ(約770円)にする方針です。首都バンコクと周辺6県では先月、引き上げを先行実施。大幅な賃上げを全国に拡大し、労働者の購買力を高めて経済活性化につなげるのが狙いです。
経営者団体は、最賃引き上げで経営コストが約16%増え、中小企業の倒産が続出すると反発。大幅賃上げによって物価が上昇し始めており、労働者の生活向上には結びつかないと主張しています。
これに対してキティラット副首相は、「賃上げは人間を尊厳ある存在にするということだ。反対者は数百万バーツ(数百万円)もの月収を得ている経営者であり、不愉快な話だ」と経営者団体を批判。経営コストの削減は労働者の賃金抑制ではなく、効率的な生産設備の導入などの努力で実現すべきだと強調しました。
政府は、物価上昇の原因は世界的な燃料費の高騰と、昨年の大洪水による生産への打撃の影響だと主張。最賃引き上げによる企業負担増については、中小企業向けの低利融資や、法人税率の引き下げで対応する方針です。
現在30%の法人税率を今年23%、来年から20%へと段階的に引き下げますが、経済活性化による企業の増収によって、税率が下がっても納税額は増えると見込んでいます。
インラック首相は1日のメーデー記念テレビ演説で、「政府は労働者が安全で健全な環境の中で働き、生活を向上させることを望んでいる」として、昨年7月の総選挙で公約した最低賃金引き上げを必ず全国で実施すると述べました。
大手パトラ証券のスパウット理事は現地紙に、「1997年の通貨危機による経済悪化で打撃を受けたタイ企業は、内部留保の蓄積を進めた。動機は自己防衛だったが、その後10年以上、労働者の実質賃金はほとんど上がっていない」と指摘しています。